労災保険料は全額が会社負担?計算方法や休業補償の必要性も解説
「労災保険料の会社負担率はどのくらい?」とお調べではありませんか。この記事では、労災保険料の会社負担率はどの程度なのか、労働者による負担はあるのか解説しています。
さらに、会社負担の労災保険料の計算方法を紹介し、いくつかの例をもとに保険料のシミュレーションも実施。記事の後半では、労働事故が発生した際の会社負担での休業補償の必要性も解説しています。
最後までお読みいただければ、労災保険の会社負担にまつわる情報を、総合的に理解できるでしょう。
目次[非表示]
- 1.労災保険料の会社負担率は100%!個人負担は一切なし
- 1.1.雇用保険の場合
- 2.会社が負担する保険料の計算方法
- 2.1.賃金総額とは
- 2.2.労災保険率とは
- 2.3.会社負担の労災保険料の計算例
- 2.3.1.従業員10人の建設事業の場合のシミュレーション
- 2.3.2.従業員20人の金融業の場合のシミュレーション
- 2.3.3.従業員5人の林業の場合のシミュレーション
- 3.業務災害が発生した時の休業補償の会社負担
- 3.1.事業主に帰責事由がある場合は全額会社負担となる場合もある
- 3.2.会社負担の休業補償の計算方法
- 3.3.通勤災害の場合の会社負担
- 4.労災保険を使わない場合は治療費等が会社負担
- 5.まとめ
労災保険料の会社負担率は100%!個人負担は一切なし
結論からお伝えすると、労災保険料の会社負担率は100%です。つまり労災保険料は全額が会社負担になり、労働者が個人負担することはありません。
雇用保険の場合
労災保険とあわせて労働保険に含まれるのが雇用保険です。労災保険料は全額が会社負担である一方、雇用保険に関しては事業主と労働者の双方が負担する仕組みとなっています。
会社が負担する保険料の計算方法
会社負担の労災保険料を計算する方法は、次のとおりです。
労災保険料=賃金総額×労災保険率
このように労災保険料の計算式はいたってシンプルですが、全従業員の賃金総額を正確に把握する必要があるため、実際の計算にはある程度の手間と時間がかかります。
賃金総額とは
会社負担の労災保険料を計算するためには、全従業員の賃金総額を把握する必要があります。
賃金総額とは、事業主が労働者に対して、労働の対価として支払った金額の総額です。どのような名称であっても、労働の対価としての性質がある支払いであれば、賃金総額に算定します。
賃金総額に算定される支払いの例は、厚生労働省が明示しているため、紹介します。
賃金に含める支払いの例 |
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賃金に含めない支払いの例 |
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なお会社負担の労災保険料を求める際の賃金総額は、税金や各種社会保険料を控除する前の金額となります。
労災保険率とは
労災保険率とは、厚生労働省が毎年発表している、会社負担の保険料を算出するための料率です。労災保険率は業種ごとの労働災害リスクに応じて決定され、例えば同じ建設業であっても、事業の内容により料率が異なります。
厚生労働省が発表した令和3年度の労災保険率の一部を紹介すると、次のとおりです。
業種分類 |
事業の種類 |
労災保険率 |
---|---|---|
林業 |
林業 |
60/1,000 |
漁業 |
海面漁業 |
18/1,000 |
定置網漁業、海面魚類養殖業 |
38/1,000 |
|
鉱業 |
金属鉱業、非金属鉱業、石炭鉱業 |
88/1,000 |
石灰石鉱業、ドロマイト鉱業 |
16/1,000 |
|
原油、天然ガス鉱業 |
2.5/1,000 |
|
採石業 |
49/1,000 |
|
その他の鉱業 |
26/1,000 |
|
建設事業 |
水力発電施設、ずい道等新設事業 |
62/1,000 |
道路新設事業 |
11/1,000 |
|
舗装工事業 |
9/1,000 |
|
鉄道、軌道新設事業 |
9/1,000 |
|
建築事業 |
9.5/1,000 |
|
既設建築物設備工事業 |
12/1,000 |
|
機械装置の組立て、据付けの事業 |
6.5/1,000 |
|
その他の建設事業 |
15/1,000 |
|
製造業 |
食料品製造業 |
6/1,000 |
繊維工業、繊維製品製造業 |
4/1,000 |
|
木材、木製品製造業 |
14/1,000 |
|
印刷、製本業 |
3.5/1,000 |
|
コンクリート製造業 |
13/1,000 |
|
陶磁器製品製造業 |
18/1,000 |
|
船舶製造、修理業 |
23/1,000 |
|
その他の製造業 |
6.5/1,000 |
|
運輸業
|
交通運輸事業 |
4/1,000 |
貨物取扱事業 |
9/1,000 |
|
港湾貨物取扱事業 |
9/1,000 |
|
港湾荷役業 |
13/1,000 |
|
電気、ガス、水道、熱供給の事業 |
電気、ガス、水道、熱供給の事業 |
3/1,000 |
その他の事業 |
農業又は海面漁業以外の漁業 |
13/1,000 |
清掃、火葬、と畜の事業 |
13/1,000 |
|
ビルメンテナンス業 |
5.5/1,000 |
|
倉庫業、警備業、消毒、害虫駆除の事業、ゴルフ場の事業 |
6.5/1,000 |
|
通信業、放送業、新聞業、出版業 |
2.5/1,000 |
|
卸売業・小売業、飲食店、宿泊業 |
3/1,000 |
|
金融業、保険業、不動産業 |
2.5/1,000 |
|
その他の各種事業 |
3/1,000 |
なお上記は一例であり、労災保険率は他にも多数の業種が細分化され決められています。
メリット制の適用事業は労災保険率または保険料が調整される
労災保険には、「メリット制」と呼ばれる制度が存在します。労災保険のメリット制とは、事業場ごとの災害リスクや労働災害の発生状況に応じて、労災保険率または労災保険料が一定の範囲で調整される仕組みです。
メリット制が適用される事業者に関しては、労災保険率が個別に通知されることになっています。受け取った通知書に労災保険率が記載されているので、そちらを参照しましょう。
会社負担の労災保険料の計算例
会社負担の労災保険料がどの程度なのかをイメージしやすいように、下記3つのパターンを例に、具体的な保険料をシミュレーションしてみましょう。
- 従業員10人の建設事業(平均年収450万円)
- 従業員20人の金融業(平均年収600万円)
- 従業員5人の林業(平均年収400万円)
ぜひこのシミュレーションを参考に、自社の労災保険料も試算してみてください。
従業員10人の建設事業の場合のシミュレーション
10人の従業員が勤務する建設事業を例に、会社負担の労災保険料のシミュレーションをしてみましょう。1人あたりの平均年収は、450万円と仮定します。
令和3年度の建設事業の労災保険率は9.5/1,000のため、会社負担の保険料は次のとおりです。
450万円×10人×9.5÷1,000=427,500円
なお同じ建設事業でも、事業の種類が異なる場合は労災保険率が変わるため、保険料も変わってきます。
従業員20人の金融業の場合のシミュレーション
20人の従業員が働く金融業の場合を例に、会社負担の労災保険料の計算例を紹介します。1人あたりの平均年収を600万円と仮定すると、金融業の労災保険率は2.5/1,000のため、会社負担の労災保険料は次のとおりです。
600万円×20人×2.5÷1,000=300,000円
建設事業の場合より従業員数も平均年収も多い仮定のシミュレーションですが、金融業のほうが災害リスクが小さいため、会社負担の労災保険料も少なくなっています。
従業員5人の林業の場合のシミュレーション
5人の従業員がいる林業の場合、1人あたりの平均年収を400万円と仮定し、会社負担の労災保険料をシミュレーションしてみましょう。令和3年度の林業の労災保険率は60/1,000のため、会社負担の労災保険料は次のとおりです。
400万円×5人×60÷1,000=1,200,000円
これまでの計算例よりも従業員数は少ないですが、林業は災害リスクも大きいので、会社負担の労災保険料はかなり高額になっています。
業務災害が発生した時の休業補償の会社負担
もし万が一業務災害が発生した場合、会社が労災保険に加入していれば、療養補償や休業補償などの給付がおこなわれます。労災保険から給付される補償金などについては、原則として会社負担はありません。
しかし実は、業務災害が発生した際の休業補償は、一部のみ会社負担の必要があるものが存在します。会社負担の必要があるのは、業務災害が発生して労働者が休業を余儀なくされた時の、3日目までの休業補償です。
労災保険の休業補償が給付されるのは、休業4日目からとなっています。休業3日目までは労災からの休業補償が受けられないので、会社負担で補償する義務があるのです。
労働基準法の第76条によると、労働者が業務上に負傷した、また疾病にかかった際は、会社負担で休業補償をするように定められています。
【引用部分】
労働基準法 第76条
労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
引用:労働基準法(e-Gov)
このように、法律では会社負担の休業補償の金額まで定められていて、平均賃金の60%以上を補償する必要があります。
なお休業4日目から支給される労災保険の休業補償も、給付基礎日額の60%(給付基礎日額は原則として平均賃金に相当する金額)となっています。4日目から労働者は、労災保険の休業補償を受けられるため、以降の会社負担は免除される形です。
事業主に帰責事由がある場合は全額会社負担となる場合もある
業務災害の発生に際して、裁判などで事業主の帰責事由が認められた場合は、賃金の全額を会社負担しなければならないケースがあります。これは、民法第536条2項に基づく判断です。
業務災害では基本的には平均賃金の60%が会社負担となりますが、事業主に帰責事由がある場合は、この点に注意する必要があります。
会社負担の休業補償の計算方法
業務災害が発生した際の、会社負担の休業補償がいくらになるか計算するためには、まずは労働者の平均賃金を算出します。
平均賃金は、事故発生日の直前3ヶ月分の支払額を、期間中の歴日数で割った1日あたりの賃金です。平均賃金を求める際には、賞与や臨時に支払う賃金は含みません。
月給30万円(月末締め)の労働者が、6月に業務災害を被ったと仮定すると、平均賃金の計算に用いるのは3月〜5月の支払いです。この場合の平均賃金の計算例を紹介すると、次のようになります。
30万円×3ヶ月÷(3月:31日+4月:30日+5月:31日)=9,783円(平均賃金) ※端数切り上げ
上記の計算式で平均賃金が求められたので、その60%が休業補償の会社負担額となります。
9,783円(平均賃金)×60%×3日分=17,609円 ※端数四捨五入
このように先ほどの仮定の例では、会社負担の3日分の休業補償は17,609円となります。
通勤災害の場合の会社負担
労働災害には、業務中に発生した災害である「業務災害」と、通勤・帰宅途中の災害である「通勤災害」の2種類があります。業務災害の場合は、3日までは会社負担で休業補償をおこなう必要がある一方、通勤災害の場合は会社負担での休業補償は必要ありません。
通勤災害が発生した場合、休業4日目からは労災保険から休業補償の給付が開始されます。
労災保険を使わない場合は治療費等が会社負担
仕事中にケガをしてしまった従業員の中には、「軽い擦り傷だし、労災保険の手続きは煩雑そうだから避けたい」と考える人もいるでしょう。
労働事故が発生した場合でも、労働者の判断で労災保険を使わないことは可能です。労働者が自らの判断で労災保険を使わない場合でも、企業側が違法行為として問われる心配はありません。
もし労働者の判断で労災保険を使わないで医療機関を受診する場合、業務中のケガや病気の治療費は、全額を会社負担する必要があります。なぜなら労働基準法では、業務中に発生した労働者のケガや病気の治療費は、事業主負担の義務があるためです。
なお、労働者の判断で労災保険を使わない場合であっても、事故の内容や状況によっては、労働基準監督署や労働局に報告義務が生じます。意図的に労働事故の発生を報告しない行為は「労災隠し」と呼ばれ、違法行為に該当するため注意が必要です。
また、事業主が労働者に何らかの圧力をかけ、労災保険を使わせないように仕向けるのも違法行為となります。労災保険を使わない選択は、あくまでも労働者自らの意思である必要があります。
まとめ
会社負担の労災保険料は事業の種類により異なる
この記事では、労災保険料の会社負担に関する情報をまとめました。記事の要点をごく簡単にまとめると、次のとおりです。
- 労災保険料は全額が会社負担
- 労働者が保険料を負担することはない
- 保険料は、事業の種類ごとに異なる労災保険率をもとに計算する
- 業務災害による休業補償は、3日目まで会社負担
- 労災保険を使わない場合の治療費は全額が会社負担
なお、新たに労働保険の適用事業者になった場合は、期日までの成立手続きが必須です。手続きの遅れが発生しないよう、適切に成立手続きをおこないましょう。
- 一人親方は、事故やケガに注意する必要がある
- 労災保険に特別加入していると、万が一の際にも安心
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