建設業における労災保険は他の業種とは違って非常に特殊です。 通常、労災保険は事業所を単位として保険関係が成立しますが、建設業の場合は工事ごと、建設現場ごとに保険関係が成立し 元請が自身の責任で保険関係を成立させ、保険料を支払うことになります。
そして建設現場で起きた事故はそれが元請作業員であっても、下請作業員であっても元請が成立させた保険を使って申請することになります。 つまり、下請は保険料を払わずに、元請の保険の保護を受けられることになります。
しかし、労災保険は「労働者」を対象としているため、企業の役員や一人親方は保険の対象となりません。 このため、同じように建設現場で作業に従事しながら保険の適用対象となる人とならない人が出てきます。 適用になる人とならない人の違いは一言で言えば「雇用関係にあるかどうか」ということです。
そこで、これらの方々も補償を受けることができるように、特別に労災保険に任意加入を認めているのが労災保険の特別加入制度です。特別加入制度には下記の4種類があります。それぞれ対象者が細かく規定されています。当然のことながら加入対象外の方もいます。特別加入はしてみたものの補償が受けられないという場合もありますので、加入にあたっては注意が必要です。本サイトでは特に断りがない限り、建設業の一人親方の方について説明します。
※ 建設現場で働く方の働き方が一人親方としての働き方なのかの判断基準が国土交通省より配布されております。 自身が一人親方に該当するかどうかの目安としてご活用ください。一人親方として認められない場合、労災保険の特別加入をしても 万一の際労災保険の給付が受けられない場合があります。判断基準を読んでも該当するかどうかご不明な場合は お近くの労働基準監督署へお問い合わせの上ご加入をご検討ください。
労災保険の特別加入制度を利用すれば「雇用関係にない者」であっても労災保険に加入することができます。その対象者として建設業の一人親方がいます。では、どういった方が一人親方とみなされ、どのような条件を満たせば労災保険に特別加入ができるのでしょうか?
まず、一人親方とは労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者およびその事業に従事する者であっても労働者でない者 (例えば、配偶者、同居の親族)をいいます。 また、労働者を使用しないで事業を行うことを常態とする者とは年間を通じて労働者を1人も使用しない場合はもとより、 労働者を使用する日の合計が1年において100日未満となることが見込まれる者のことをいいます。「一人親方」という言葉から全くの一人で仕事をする方を連想する人もいますが、労災保険で言う一人親方とは、若干範囲が広く、具体的には以下のような方々が該当します。
一人親方としてどのような立場で仕事をしているのか?が最初の重要なポイントとなります。他人を常用として雇用している場合も常用として雇用されている場合も、当然ながら労災保険の特別加入の対象外となります。
ところで雇用と請負の違いとは何でしょうか。実は雇用なのか請負なのかについてはいくつもの要素が絡み合っています。いくつもの要素を総合的に判断し、その結果として請負の要素が強ければ請負関係にある一人親方と言えますし、雇用の要素が強ければ会社等の組織に所属する従業員、すなわち雇用関係ありと判断します。その判断要素としては大体次のようなものがあります。もちろん、以下の要素だけではなくその他の要素もありますので、すべてを包括的に判断しなければなりません。
建設業の一人親方は個人事業主として働く方が多いですが、個人事業主だからと言って労災保険に特別加入ができるとは限りません。なぜならば、個人事業主であっても人を雇用することがあるからです。逆に法人だからと言って労災保険に特別加入できないわけではありません。一人法人又は役員だけの法人ということもあるからです。一人親方の労災保険に加入できるかどうかの判断は実態を詳しく聞かないとわからないことが多いと言えます。 |
次にクリアすべき条件として加入できる職種について見ていきます。労災センター共済会で加入できるのは建設業に従事する一人親方です。建設業で特別加入できる一人親方の職種については特に限定はなく、土木・建築その他の工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊もしくは、解体又はその準備の作業(設計・監理業は除く)に従事している方及びその家族従業者が対象です。
具体的には以下のような職種が該当すると考えられますが、以下にない職種でも該当する場合がありますので、ご不明な点はお問い合わせフォームよりご連絡いただくか、またはお近くの労働基準監督署にお問い合わせください。
土木工事、建築工事、大工工事、左官工事、屋根工事、管工事、電気工事、防水工事、ガラス工事、水道施設工事、塗装工事、機械器具設置工事、 とび工事、型枠コンクリート工事、内装工事、板金工事、建具工事、タイル・レンガ・ブロック工事、鉄筋工事、解体工事 |
第2のポイントとして、従事している業務が建設業としての「土木・建築その他の工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊もしくは、解体又はその準備の作業(設計・監理業は除く)」に該当するのかどうかについてです。現場作業であっても、クリーニングや調査のみの業務は対象外となります。一人親方として仕事をなさっている方の業務は非常に多岐に亘ります。建設業に従事しているからと言って全ての業務が労災保険の特別加入の対象者ではありませんので、注意が必要です。
現場監督・施工管理・設計監理については一人親方の労災保険に特別加入が可能かどうか問い合わせが数多くあります。まずはそれぞれの仕事内容を下記に説明してから検証します。
建設現場に入る方の中には清掃業やクリーニング業に携わる方も多く、中には個人事業主という方もいます。入退去時や新築建物の引渡し前の清掃・クリーニングの施工として廃棄物の撤去、ホコリの除去、サッシ・ガラス等の清掃、壁・床等の拭き作業等はもちろんのこと床のワックスがけ、外壁洗浄、クロスの貼り換えなどを請け負うことも多いようです。純然たる清掃・クリーニングは労災保険の特別加入の対象外と考えられますが、美装工事・洗い工事の場合はクリーニング・清掃を超えた美観の為の工事として該当する場合もあります。ちなみに、美装工事はその特性から現場で唯一足跡を残さない職種と言われているそうです。
一人親方の建設業従事者の職種は非常に多岐に渡ります。大工工事、とび工事、左官工事など聞き慣れた職種の方はもちろんのこと防蟻工事やはつり工事などその多くが建設業の一人親方として労災保険に特別加入しています。造園工事もその一つですが、気を付けるべき点があります。造園工事といった場合、「整地、樹木の植栽、景石のすえ付け等により庭園、公園、緑地等の苑地を築造し、道路、建築物の屋上等を緑化し、又は植生を復元する工事」を言います。具体的には植栽、公園設備、屋上等緑化、緑地育成等が造園工事に該当しますが、維持管理・剪定・枝打ち・草刈・伐採などは建設業の造園工事とは認められません。造園工事の一環として行う場合は労災保険の補償の対象となる余地はありますが、請け負ったお仕事が維持管理・剪定・枝打ち・草刈・伐採である場合は補償が受けられない可能性が高いと考えられますのでご注意ください。
特別加入を希望する一人親方の方で、下記の表に記載されている業務の種類に応じて、 それぞれの従事期間を超えてその業務を行ったことがある方については、特別加入の申請時に健康診断を受ける必要があります。
従事する業務の中には下記の表の左欄の特定業務に従事している方が多くいます。例えば、塗装業を営む方は有機溶剤を使用している頻度が他の業種の方よりだいぶ高いのではないでしょうか?また、解体工事の従事者はどうでしょう?粉じんが多く飛散する現場にいる時間が多いと考えらえます。このように過去に下記の表の左欄を伴う業務に一定年数従事している方は健康診断の対象者と考えられます。対象となる方は必ず受診してください。ここが3番目の重要なポイントとなります。
加入予定者の業務の種類 |
特別加入前に左記の業務に従事した期間 | 実施する健康診断 |
---|---|---|
粉じん作業を行う業務 | 3年 | じん肺健康診断 |
振動工具使用の業務 | 1年 | 振動障害健康診断 |
鉛業務 | 6ヵ月 | 鉛中毒健康診断 |
有機溶剤業務 | 6ヵ月 | 有機溶剤中毒健康診断 |
加入時に健康診断の対象となる方は、指定された期間内に指示された医療機関で健康診断を受ける必要があります。 なお、この場合の健康診断に要する費用は無料です。ただし、受診のために要した交通費は自己負担となります。 また、健康診断の結果加入が認められなかった場合、納付いただきました費用について労災保険料のみ返金いたします。
粉じん作業とは当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業を言います。 具体的にはじん肺法施行規則別表(じん肺法第2条関係)に定める作業で主なものは次の通りです。
圧搾空気を動力源とし、又は内燃機関、電動モーター等の動力により駆動される身体局所に著しい振動を与える工具を取り扱う業務を言います。 具体的には、削岩機、ピッチングハンマー、コーキングハンマー、ハンドハンマー、コンクリートブレーカー、スケーリングハンマー、サンドランマー、 チェーンソー、ブッシュクリーナー、エンジンカッター、携帯用木材皮剥ぎ機、スィング研削盤、卓上研削盤などがあり、 その他振動工具と類似の振動を身体局所に与えると認められる工具を言います。
有機溶剤業務とは主に有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務接着のために 有機溶剤等を塗布された物の接着の業務有機溶剤等を用いて行う洗浄又は払拭の業務を言い、 キシレン、N・N-ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン、1・1・1-トリクロルエタン、 トリクロルエチレン、トルエン、ノルマルヘキサン等の溶剤を使用します。
加入時健康診断を受けた結果、次の場合には特別加入が制限されます。
労働局の指導により一人親方の労災保険の特別加入のお申し込みにあたって、事前に本人確認書類の確認が必要となっています。身分証明書の確認ができない場合、特別加入の申請をすることはできません。
有効な本人確認書類として1点で済むものと2点必要なものがあります。通常は下記のようなものが該当します。
なお、外国籍の方は在留カードを必ず添付してください。在留カードの添付がないとご加入できません。また、在留カード記載の住所に変更がある場合は、現住所が記載されている書類と併せて添付して ください。ご加入に際して日本名で登録希望の場合は、本名と日本名が併記されている書類と併せて添付してください。
外国人労働者が増えてきたことに伴い一人親方の外国人も増えてきました。外国人を使用する上で在留カードで氏名、住所、生年月日、有効期間を確認することはもちろんですが、どういう在留資格で仕事をするのかも大事なポイントです。仕事をするのはOKでも雇用契約のみで請負契約は不可というケースもあります。外国人を一人親方として使用する場合は充分な注意が必要です。
業務災害の判断基準は下記に該当する行為においては、労働災害と認められ労災保険の給付の対象となります。
・請負契約に直接必要な行為を行う場合
例)工事の請負契約を締結する行為、契約前の見積り、現場の下見等を行う場合等
・請負工事現場の作業及びこれに直接附帯する行為
例)請負工事現場における作業等及びこれに直接附帯する行為
・請負契約に基づく行為を自社の作業場で行う場合
例)請負契約による作業を自家内作業場等で行う場合
・請負工事に係る機械・製品を運搬する作業
例)請負工事に係る機械・製品を自宅から工事現場まで運搬する行為
・突発事故(台風・火災等)による予定外の緊急出勤途上の行為
例)台風・火災等のため予定外の緊急出勤途上
通勤災害の判断基準は下記になります。
通勤とは、労働者が就業に関し、住居と職場との間を合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除きます。 なお、通勤災害は健康保険では給付されず、労災保険で給付されます。
また、通勤経路の途中で逸脱もしくは中断していた場合や、通勤経路・通勤方法が合理的とみなされない場合は、 日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められている場合を除いて、通勤災害として認められません。
給付基礎日額とは、労災保険給付の基準となるものであって、労働者の場合には賃金をもとに算出されます。 しかし、一人親方の場合には賃金というものがないので、給付基礎日額は、一定の範囲内から自分で選択することになります。 なお、一度決定された給付基礎日額は、毎年更新の際に変更することができます。
※ 労災センター共済会では、3,500円、5,000円、7,000円、10,000円の4種類の給付基礎日額に対応しております。
一人親方の労災保険に加入している人(特別加入者)に対する保険給付等については、一般の労働者の場合とほぼ同様に、業務上の事由または通勤により傷病を被ったときに下表の保険給付を行っています。
ただし、特別支給金のうちボーナス等の特別給与を算定の基礎とするいわゆる「ボーナス特別支給金」については支給されません。
なお、療養補償給付以外の給付については労働者の場合その労働者の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とし、これを基礎として所定の率や日数を乗じて得られる額が給付される額となりますが、一人親方の場合この基礎となる賃金がありませんから、これに替わるものとして法律で定められた給付基礎日額から自己の収入等に見合ったものを選び、その他所定の率や日数を乗じて得られる額が給付額となります。補償内容についての詳細はこちらの労災保険の補償内容をご確認ください。
給付の種類 | 支給の事由 | 給付の内容 | 特別支給金 |
---|---|---|---|
療養補償 | 療養を必要とするとき | 療養に必要な費用 |
--------- |
休業補償 |
療養のため仕事をすることができずに休業するとき | 給付基礎日額の6割を休業4日目から支給 | 給付基礎日額の2割を休業4日目から支給 |
傷病補償年金 | 療養開始後1年6カ月を経過しても治らず傷病等級に該当するとき | 給付基礎日額の1級313日分から3級245日分の年金 | 一時金 1級114万円 2級107万円 3級100万円 |
障害補償年金 | 傷病が治った後に身体に障害が残ったとき(障害等級1級から7級) | 給付基礎日額の1級313日分から7級131日分の年金 | 一時金 1級342万円から7級159万円 |
障害補償一時金 | 傷病が治った後に身体に障害が残ったとき(障害等級8級から14級) | 給付基礎日額の8級503日分から14級56日分の一時金 | 一時金 8級65万円から14級8万円 |
介護補償 | 傷病年金又は障害年金受給者のうち等級が1級又は2級の方 | 介護費用(上限あり) | --------- |
遺族補償年金 | 死亡したとき | 遺族の人数に応じて、給付基礎日額の245日分から153日分の年金 | 一時金 300万円 |
遺族補償一時金 | 死亡した方に遺族補償年金を受ける遺族がいないとき | 給付基礎日額の1,000日分の一時金 | |
葬祭料 | 死亡した方の葬祭を行うとき | 給付基礎日額に応じて42万円から120万円 | --------- |
<給付基礎日額に応じた補償内容>
治療費 | 休業補償 | 障害年金 | 葬祭費用 | 遺族年金 | ||
休業1日分 | 7級の場合 | 遺族1名 | ||||
給付基礎日額 | 3,500円 | 無料 | 2,800円 | 458,500円 | 420,000円 | 533,500円 |
5,000円 |
4,000円 |
655,000円 |
465,000円 | 765,000円 | ||
7,000円 | 5,600円 | 917,000円 | 525,000円 | 1,071,000円 | ||
10,000円 | 8,000円 | 1,310,000円 | 615,000円 | 1,530,000円 |
※ 労災による治療費は、給付基礎日額に関わらず、全て無料となります。
※ 休業補償は、労務不能4日目から支給されます。
※ 障害補償年金に関しては、障害等級7級の場合の年金額を記載。障害等級に応じて給付額が変わります。
※ 葬祭費用に関しては、葬祭を行った者に支給されます。
※ 遺族年金に関しては、遺族が1名の場合の年金額を記載。
※ 遺族とは配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹のうち、一定の要件に該当するものに限られます。