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副業・ダブルワークなどの複数就業している場合の労災保険の取り扱いを解説します!

 労災保険は一般的に業務が原因によるケガや疾病、あるいは通勤途上におけるケガに対してその療養の費用、休業時の生活保障、後遺症がある場合の補償、または死亡した場合にその遺族への補償をするための国の保険です。
 労災保険は雇用関係にある労働者全員が加入するためのもので労災保険料は全額会社(事業主)が負担します。正社員・パート・アルバイト等雇用形態を問いません。ただし、建設業の一人親方を初めとしてご自身で労災保険料を負担する場合も一部あります。
 最近は副業や兼業など複数仕事を持っている方が増えてきました。このような場合において労災保険はどのような取り扱いをするのかについて解説致します。

目次[非表示]

  1. 1.労災保険とは?
    1. 1.1.労災保険はどんな場合に使用するのか?
    2. 1.2.業務災害とは?
      1. 1.2.1.業務災害になるケース
      2. 1.2.2.業務災害にならないケース
    3. 1.3.通勤災害とは?
      1. 1.3.1.通勤災害になるケース
      2. 1.3.2.通勤災害にならないケース
    4. 1.4.労災保険の保険給付
      1. 1.4.1.療養補償等給付・療養等給付
      2. 1.4.2.休業補償等給付・休業等給付
      3. 1.4.3.障害補償等給付・障害等給付
      4. 1.4.4.遺族補償等給付・遺族等給付
      5. 1.4.5.葬祭料・葬祭給付
    5. 1.5.給付基礎日額
  2. 2.複数の就業している方の労災保険の保険給付
    1. 2.1.改正の対象となる労働者
    2. 2.2.賃金額の合算
    3. 2.3.負荷の総合評価
  3. 3.まとめ

労災保険とは?

 労災保険は正式には労働者災害補償保険と言い、会社(事業主)が雇用関係にある労働者のために加入する国の強制保険です。労災保険料は事業ごとの危険度に応じた労災保険料率に賃金を乗じて計算します。
 例外的な制度として会社の取締役(通常、取締役は雇用関係ではなく委任関係)や一人親方などの個人事業主が加入できる特別加入という制度が労災保険にあります。この労災保険の特別加入制度は強制ではありません。あくまでも任意で加入するものです。しかし、労災保険の特別加入も通常の労災保険も加入の対象者が異なるということ以外大きな違いはありません。

労災保険はどんな場合に使用するのか?

 ケガや病気にかかったという時に使用できる保険として、サラリーマンなどが加入する健康保険、自営業者などが加入する国民健康保険、また交通事故の場合には自賠責保険があります。
 労災保険は業務上のケガや病気(業務災害)に対して、あるいは通勤途上でのケガ(通勤災害)に対して治療費を初めとして必要な保険給付を行います。

業務災害とは?

 まず業務災害とは業務が原因によるケガや疾病のことを言いますが、業務災害が労災として認定されるにはどういう作業をどういう目的でしている最中にどういうケガをしたのかを明らかにする必要があります。そのため事故自体が同じようなケースであっても労災として認定されるケース・認定されないケースがあるため、労災認定の判断はケースバイケースとなります。

業務災害になるケース

  • 営業先から営業先へ移動中にケガをした
  • 作業中にトイレに行く途中にケガをした

業務災害にならないケース

  • 休憩中にケガをした
  • 仕事中にキャッチボールをしていてケガをした

通勤災害とは?

 通勤災害とは通勤途上におけるケガのことを言います。通勤災害が労災として認定される要素としてまず大事なのは通勤災害が起きた時、労災保険が言う「通勤」途上だったのかということになります。通勤とは一言で言えば出勤・退勤ともに自宅と会社を往復ですが、この往復の過程においてどこにも寄り道しなければいいですが、そうでないケースも多いでしょう。

通勤災害になるケース

  • 出勤途中で会社近くのコンビニで昼食の弁当を購入した後で会社に行く途中でケガをした
  • 出勤前に子供を保育園に送り届けた後に保育園の前でケガをした
  • 駅の売店で新聞とコーヒーを買っている時にケガをした
  • バイト先から別のバイト先へ行く途中にケガをした

通勤災害にならないケース

  • オートロック式のマンションの自宅玄関を出たところでケガをした
  • 仕事帰りに知人から私怨により暴行を受けた
  • 同僚と居酒屋に立ち寄った後にケガをした
  • 学校からバイト先へ移動中にケガをした

労災保険の保険給付

 労災保険の保険給付のうち代表的な保険給付を紹介いたします。業務災害と通勤災害とでは名称が異なりますが、補償の内容は同じです。業務災害の場合「補償」という文言が入りますが、通勤災害には入りません。

療養補償等給付・療養等給付

 ケガや疾病に対して必要な療養上の給付を症状が治癒(症状固定)するまで行います。療養の給付の内容は幅広く医療機関での治療、薬局での薬の処方、鍼灸整骨院での施術、訪問看護、装具の支給などがあります。
 なお、給付方法は一旦費用の全額を支払ったうえで労働基準監督署にその費用を請求する現金給付と窓口での負担なく給付が受けられる現物給付の2種類があります。

休業補償等給付・休業等給付

 ケガ又は疾病が原因で仕事ができず、賃金を受けられないという状況が4日以上続いた時に給付基礎日額の8割(特別支給金2割を含む)が支給されます。
 休業補償等給付・休業等給付も療養補償等給付・療養等給付と同様に治癒(症状固定)するまでとされています。

障害補償等給付・障害等給付

 ケガ又は疾病の治療の後身体に障害が残った場合に、障害の程度に応じて年金又は一時金が支給されます。障害等級1級から7級までが年金、8級から14級までが一時金です。

障害補償等給付・障害等給付の額
障害補償等年金・障害等年金
障害補償等一時金・障害等一時金
障害等級
年金額
障害等級
一時額
1級
給付基礎日額の313日分
8級
給付基礎日額の503日分
2級
給付基礎日額の277日分
9級
給付基礎日額の391日分
3級
給付基礎日額の245日分
10級
給付基礎日額の302日分
4級
給付基礎日額の213日分
11級
給付基礎日額の223日分
5級
給付基礎日額の184日分
12級
給付基礎日額の156日分
6級
給付基礎日額の156日分
13級
給付基礎日額の101日分
7級
給付基礎日額の131日分
14級
給付基礎日額の56日分

遺族補償等給付・遺族等給付

 業務災害又は通勤災害により死亡した場合に死亡した方の収入で生活を維持していたその遺族に遺族の人数に応じて年金が支給されます。

遺族の数、
年金額
1人

給付基礎日額の153日分

(遺族が55歳以上の妻又は障害5級以上等の妻の場合は

給付基礎日額の175日分)

2人
給付基礎日額の201日分
3人
給付基礎日額の223日分
4人以上
給付基礎日額の245日分

 生計を維持していた遺族がいない場合は遺族補償等一時金・遺族等一時金として給付基礎日額の1000日分が支給されます。

葬祭料・葬祭給付

 死亡した方の葬祭を行った方に次のいずれか高い金額を支給します。

  • 31万5,000円+給付基礎日額30日分
  • 給付基礎日額60日分

給付基礎日額

 労災保険の給付の際に給付基礎日額という言葉が出てきました。給付基礎日額とは、通常は労働基準法で言うところの平均賃金に相当する額を言います。具体的には原則として災害が発生した日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額をその期間の総日数で除して得た額ということになります。臨時に支払われるものや3ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与は含めずに計算します。
 具体例に下記の例で説明します。

  • 15日締めの25日払い
  • 令和4年2月11日にケガ
  • 1月25日の給料の総支給300,000円(暦日数31日)
  • 12月25日の給料の総支給310,000円(暦日数30日)
  • 11月25日の給料の総支給300,000円(暦日数31日)

給付基礎日額9,891円30銭=3か月の賃金合計910,000円÷3か月の暦日数合計92日

 なお、一人親方などの特別加入者の場合は算定の基礎となる給料がありませんので、給付基礎日額は3500円から25000円の16段階です。これは特別加入者が労災保険に特別加入するにあたって労働基準監督署に届け出ます。下記に例として建設業の一人親方の給付基礎日額とそれに対する労災保険料を紹介します。

特別加入者の給付基礎日額

給付基礎日額

保険料算定基礎額

(給付基礎日額 × 365

建設業の一人親方の労災保険料
(令和3年度)

3,500円

  1,277,500円

 22,986円

 4,000円

 1,460,000円

 26,280円

 5,000円

 1,825,000円

 32,850円

 6,000円

 2,190,000円

 39,420円

 7,000円

 2,555,000円

 45,990円

 8,000円

 2,920,000円

 52,560円

 9,000円

3,285,000円

 59,130円

 10,000円

 3,650,000円

 65,700円

 12,000円

 4,380,000円

 78,840円

 14,000円

 5,110,000円

 91,980円

 16,000円

 5,840,000円

 105,120円

 18,000円

 6,570,000円

 118,260円

 20,000円

 7,300,000円

 131,400円

 22,000円

 8,030,000円

 144,540円

 24,000円

 8,760,000円

 157,680円

 25,000円

 9,125,000円

 164,250円

複数の就業している方の労災保険の保険給付

 労災保険の保険給付は労災事故が発生した場合、労災事故発生事業場のみで保険給付の額が決まっていました。従って副業のある方やフリーターのように複数のアルバイトを掛け持ちしている方は休業補償の給付等において非常に不公平な状況でした。また、長時間労働など過労の場合の業務上の負荷についても仕事をしている全ての会社を合算して総合的に判断されておらず、労災認定において複数の仕事場で働く方にとって不利な取り扱いでした。
 コロナ禍にあって仕事を複数掛け持ちする方がますます増えてきました。サラリーマンが本業の終了の後コンビニでバイトをする、自営業者が仕事の隙間時間にウーバーイーツなどのフードデリバリーの配達をする、学生が他のバイトを増やす、といったように仕事の仕方が多様化する中で労災保険法は先述の不公平感を是正するために令和2年9月より改正がされました。
 改正のポイントは複数仕事を持っている方の賃金額の合算と負荷の総合評価です。この点を踏まえて次節からは労災保険法の改正について詳しく説明致します。

改正の対象となる労働者

 改正の対象となる労働者は複数の事業場で働いている方を言い、次のような方が該当します。注意すべき点として労災事故に遭った時に複数の仕事を持ち、その全てにおいて労災保険に加入している状態でなければなりません。

  1. 労災事故に遭った時に異なる事業主の会社でをしている方(サラリーマンをしつつ、就業後にコンビニでバイトをする方やフリーターの方など)
  2. 一つの会社で雇用関係で働きつつ、一方の仕事では労災保険に特別加入している方(サラリーマンやバイトをしつつ、他方でフードデリバリーなどの仕事をして労災保険に特別加入する方など)
  3. 複数の仕事について、その全てで労災保険に特別加入をしている方(建設業と運送業の個人事業主をして両方とも労災保険の特別加入をしている方など)

賃金額の合算

 労災保険の保険給付の中には給付基礎日額を元に給付額が決まるものが多数あります。前章で紹介した療養補償等給付・療養等給付や休業補償等給付・休業等給付等がそれに当たります。
 これまでは労災事故が発生した仕事で算出した給付基礎日額でのみ保険給付の額が決まっていましたが、令和2年9月以降の労災事故に関しては複数の仕事をしている場合、その全ての賃金等を合算した額を元に給付額を決定します。
 具定例をあげて説明します。労働者Aは会社Bで仕事をしつつ、飲食店Cで仕事をしているケースを考えてみましょう。なお、給付基礎日額の具体的な計算方法は省きます。

  • 労災事故:令和4年2月10日(飲食店Bで被災)
  • 会社Bでの直近3か月の賃金合計:890,000円
  • 飲食店Cでの直近3か月の賃金合計:252,000円(実労働38日)
  • 休業期間:令和4年2月11日から令和4年3月9日の27日間
休業補償等給付の比較

給付基礎日額
1日当たりの休業補償等給付の額
保険給付の額
改正前
3,878円94銭
3,103円
74,472円
改正後
12,413円04銭
9,930円
238,320円

 労災保険の休業補償等給付は被災した4日目から給付基礎日額の8割(休業特別支給金を含む)が支給されますので、27日間のうち実際に支給対象となるのは24日間となります。
 また、以上は休業補償等給付の場合ですが、後遺症が残った場合も死亡した場合も同様に複数の仕事をしていた場合はその全てを合算した給付基礎日額により保険給付の額が決定します。

負荷の総合評価

 今回の法改正で「複数業務要因災害」が新設されました。この制度の対象となるのはケガではなく脳・心臓疾患や精神障害です。例えば、A社で本業を8時間勤務し、土日はB社で5時間バイトをしている労働者が精神疾患などで労災認定の請求をした場合、令和2年8月まではA社とB社それぞれの負荷を個別に評価していました。そのため正当に評価されずに労災認定がされないというケースがありました。この取り扱いが令和2年9月以降はA社とB社の負荷を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになりました。

 先の例をもう少し具体的に説明します。

  • A印刷会社で営業職で働くX氏は毎日11時過ぎ近くまで残業をしていた。時には終電間際に帰宅することもあり、そのため月の残業時間はここ半年くらい80時間を超えていた。そんな中会社から大きな仕事を任されプレッシャーを感じていた。
  • 子供が大学進学をすることもあり経済的な事情から土日は自宅近くのコンビニBでバイトを始めた。しかし、慣れない仕事ということもありミスが多く、またお客にも威圧的な人がいて精神的に参っていた。

 このX氏がその後精神疾患を発症した。この場合令和2年8月まではA社とB社とでは別々に労災認定を審査していましたが、令和2年9月以降の労災に関して

  • A社とB社の労働時間の合算
  • A社での仕事上のプレッシャー
  • B社でのミスと威圧的なお客

 など、X氏に関する労働時間的負荷とそれ以外の負荷を合算して総合的に労災認定がされるように改正されました。

まとめ

 働き方改革を国が積極的に推進しているということもあり、副業や兼業を認める会社が増えてきました。労災保険の申請は原則として被災者本人が行うべきものですが、ますます複雑化する手続きにできる限り会社はサポートすべきでしょう。また、一人親方等の特別加入者は加入している一人親方団体に確認して漏れのない書類作成を心がけてください。

  • 一人親方には、万が一に備えて労災保険への特別加入がおすすめ
  • 労災保険に入っていると、万が一の際にも安心
  • 一人親方団体労災センター共済会は、費用を抑えて迅速に加入できるのでおすすめ

 一人親方労災保険の特別加入の手続き方法詳細はこちらから

 参考:労働問題に関する記事一覧|法律相談ナビ

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