建設業における一人親方のなり方やリスク、従業員を雇用した際の手続きを解説
一人親方とは、おもに建設業において知識や技能を持ち、個人事業主や自営業者として働く職人のことを指します。
「自立した事業主として働いてみたい」「組織に縛られず、自由な働き方をしてみたい」と思う方にとって魅力的に映る一人親方ですが、なり方やリスクがわからず、二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、一人親方になる方法や、一人親方として働く上で気を付けるべきポイントについて解説していきます。
一人親方として働いてみたい方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次[非表示]
- 1.一人親方になるには
- 2.個人事業主としての一人親方
- 3.理解しておくべき3つのリスク
- 3.1.違法就労に該当する可能性
- 3.2.労災保険未加入時の損害賠償請求
- 3.3.建設業許可と下請け契約
- 4.個人事業主としての一人親方
- 5.建設業などで従業員を雇用した際の手続き
- 5.1.被雇用者が家族のケース
- 5.2.被雇用者が家族ではないケース
- 5.3.現状の課題や偽装一人親方問題
- 5.4.一人親方の今後
- 6.まとめ
一人親方になるには
建設業に限らず、職人として身を立てるには、すでに実績を重ねている親方の下へ弟子入りすることが一般的です。
長期間修行をし、ある程度の知識や技能を積めれば、一人親方として独立できます。独立後も自己研鑽を怠らず、経験や実績を積み重ねていける一人親方のなかには、弟子を取り、指導者の立場となる人も出てくるでしょう。こうした指導者のことを「親方」と呼んだり、大工の世界では「棟梁」と呼んだりします。
次に紹介する図のような流れが、職人の本来たどる道といえますが、現代では一人親方の定義も変化してきており、個人事業主として請負契約に基づいて仕事をする人を「一人親方」とみなすケースも増えてきています。
個人事業主としての一人親方
一人親方は基本的に請負契約で仕事をします。そのため仕事に関することはもちろん仕事以外のこと、例えば健康保険、年金、税金等いろいろなことを自分で行わなければなりません。会社がほとんどすべてやってくれるサラリーマン等とは全く異なります。自分でやらなければ誰もやってくれません。やるように言ってくれる人もいない場合が多いでしょう。
なお、一人親方が個人事業主としてやるべきことについて、一人親方とは?行なうべき4つの手続きやコロナ給付金に関する情報を解説!で詳しく解説しておりますので、是非チェックしてください。
理解しておくべき3つのリスク
組織に縛られず自由に働ける点が魅力の一人親方ですが、一人親方として働く際に知っておくべきリスクが3つあります。
違法就労に該当する可能性
企業から仕事を受注した際、契約上は請負や委任であっても、実質その企業で働く労働者と変わらない場合、一人親方は労働者とみなされます。そのため、発注した企業は一人親方を労働者として扱い、労災保険へ加入させる義務が生じます。
しかし、企業が労災保険への加入を怠った場合は、偽装請負とみなされることもあるため、注意が必要です。発注元の企業が罰せられるだけでなく、請け負った一人親方も、罰金または建設許可業の取り消しといった処分を受ける可能性があります。
労災保険未加入時の損害賠償請求
企業に所属している場合は、企業が労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きから保険料の支払いまで行なってくれますが、一人親方の場合、労働保険への加入は任意です。
そのため、人によっては未加入の状態で働くこともありますが、仕事中や通勤中に事故や病気になった場合、労働保険による補償・給付が受けられないリスクがあります。
一人親方が労働保険へ加入するためには、「一人親方労災保険特別加入制度(一人親方労災保険)」を利用します。制度の利用には、労働局の認可を受けた団体を通じた手続きが必要です。
建設業許可と下請け契約
建設業許可を所持しない一人親方の場合、請け負う建設工事の上限は500万円未満(税込み)に定められています。この上限には材料費も含まれているため、材料費を加えた受注金額が500万円未満の範囲に収まらないといけません。
500万円以上の工事を請け負うには、建設業許可が必須です。仮に無許可で上限を超えた業務を請け負った場合、建設業法違反になる可能性があります。
不正行為が発覚した場合は、一人親方だけでなく、下請け契約を結んだ企業も処分を受けるリスクもあります。請負先に迷惑をかけないためにも、建設業許可の取得状況は事前に伝えておきましょう。
個人事業主としての一人親方
一人親方は基本的に請負契約で仕事をします。そのため、仕事に関することはもちろん、健康保険、年金、税金といった業務外のことも、自分で処理する必要があります。
会社勤めとは異なり、一人親方の場合、自分でやらなければ誰もやってくれません。そのため、一人親方として働く際には、業務における知識以外にも、知っておくべきことがたくさんあります。
一人親方が個人事業主としてやるべきことについては、一人親方とは?行なうべき4つの手続きやコロナ給付金に関する情報を解説!で詳しく解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
建設業などで従業員を雇用した際の手続き
個人事業主・法人を問わず、従業員を雇う場合は雇用保険への加入義務が生じます。
年間100日以上労働する従業員が対象で、加入の際はハローワークで手続きを行なうか、労働保険事務組合へ手続きを委託する必要があります。
また、一人親方においては、家族を従業員として雇用するケースが少なくありません。被雇用者が家族の場合とそうでない場合によって、加入する社会保険の種類が異なります。従業員を雇う際には、事前に必要な手続きを確認しておきましょう。
被雇用者が家族のケース
同居中の家族を雇用する場合、その家族従業員は労働者ではなく、一人親方とみなされます。そのため、社会保険への加入は一人親方と同様に、個人で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。
また、労災保険も特別加入扱いとなるため、労働局の認可を受けた団体を通じて加入手続きを行ないます。
ただし、次の条件を満たす家族従業員の場合は、労働者として取り扱われ、通常の労災保険へ加入することが可能です。
- 家族従業員以外に一般従業員がいる場合
- 就業の形態や労働時間が他の一般従業員と同様で、賃金の支払い形式も同様である場合
- 事業主(雇用する側の家族)の指揮・管理のもと働いていることが明白な場合
被雇用者が家族ではないケース
家族以外の人間を雇用する場合は、短期雇用ではない労働者(常用労働者)の人数によって、加入する保険が異なります。
常用労働者の人数 |
加入する保険 |
1~4名 |
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5名以上 |
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加入手続きを怠ると、請負先からの信頼を失ったり、請け負った業務ができなくなったりする可能性があるため、従業員を雇う際は忘れないよう心がけましょう。
現状の課題や偽装一人親方問題
一人親方に関する現状の課題として挙げられるのが、偽装請負です。契約上は請負であっても、実態は企業によって労働時間を管理され、企業の従業員のように働く一人親方は一定数存在します。
偽装請負が生まれる根底の理由として、企業の経費削減意識があるでしょう。近年、政府による社会保険への加入対策や、労働関係の法令規制の強化が進められています。その一方で、「本来労働者として扱うべき技能者を、一人親方とみなして保険の加入や支払いを避ける」動きが懸念されています。
偽装請負は、技能者への処遇低下が加速するだけでなく、労働関係の諸経費を適切に払っていない企業が競争力を持つことに繋がるため、見過ごせない問題です。
一人親方の今後
建設業を管轄する立場にある国土交通省では、一人親方のあり方を議論する検討会が定期的に開催されています。一人親方に対する処遇の改善や、偽装請負の撲滅へ向けた対策について、政府も力を入れて取り組んでいる様子がうかがえるでしょう。
経費削減を目的とした偽装請負は、一見すると請負先と請負元の両方にメリットがあるように考えられます。しかし、法律を軽視した行為が発覚すれば、法の裁きを受けるだけでなく、社会的な信頼を失うこともあるのです。
すべての一人親方が高い意識を持ち、自立した事業主として活動していくことが、偽装請負問題の解決に求められています。
まとめ
本記事では、一人親方という働き方について解説してきました。
一人親方になるには、まず親方へ弟子入りし、技術や経験を積む必要があります。親方から腕を認められた人のなかには、一人親方として独立する人も出てくるでしょう。
労働の自由度の高さが魅力な一人親方ですが、労災への加入の有無や、偽装請負の問題も存在します。そのため、一人親方を目指す場合は、手続きや法律に関して、事前にしっかりと調べておくことが大切です。
法律を遵守した適切な働き方を心がけ、顧客からも社会からも信頼される一人親方を目指していきましょう。