労災保険と自賠責保険の違いやメリット・デメリットを解説
前回の記事では交通事故に遭った時に労災保険の使用について解説いたしました。しかし、実際に交通事故に遭った場合に労災保険と自賠責保険の両方の保険が使用できるケースというのは珍しいことではありません。
労災保険と自賠責保険は全くの別物です。例えば、休業補償給付を見ると自賠責保険は「満額支給(上限あり)」なのに対して労災保険は「平均賃金の8割を支給」となっています。
もちろん、休業補償金額だけで判断することはできないため、労災保険・自賠責保険それぞれの補償内容やメリット・デメリットをしっかり把握し、判断する必要があります。これは、一人親方であっても同じ考え方です。
この記事では労災保険と自賠責保険の違いにスポットをあてて解説致します。それだけでなく、それぞれの保険を併用できるケースやどちらを優先して利用すべきか、についても解説しているので、保険の加入を検討している方はご覧ください。
目次[非表示]
- 1.労災保険と自賠責保険の違いとは
- 2.労災保険と自賠責保険を併用できるケース
- 2.1.怪我や疾病の治療費
- 2.2.休業する場合の補償
- 2.3.遺族に対する補償
- 2.4.葬儀の費用
- 2.5.同じ損害項目で二重請求はできない
- 3.労災保険か自賠責保険のどちらを優先するか
- 3.1.事故の過失割合が自分の方が大きい
- 3.2.加害者が無保険
- 3.3.長期の通院が必要になる場合
- 4.まとめ
労災保険と自賠責保険の違いとは
労災保険は勤務中や通勤中に生じた事故などにより疾病があった場合に国から補償を受けられる制度です。一方、自賠責保険は事故があった場合に保険会社から支払われる制度です。
どちらも交通事故が遭った際に補償される保険ですが、補償金の支払元が国からなのか、保険会社からなのかが異なります。
以下でそれぞれの特徴と役割について詳しく解説します。
労災保険とは
労災保険は労働者が勤務中や通勤中に事故や災害に遭った場合に保険金が支給される制度で、「労働者災害補償保険法」や「労働基準法」などの法律で補償が義務付けられていることから、国から支給されます。
例えば、「勤務中に重い工具を手に落として骨折した」、「取引先に車で向かう途中に事故に遭った」、「通勤中に駅のホームで転倒した」などが対象となります。
しかし、「休憩時間にキャッチボールをして付き指をした」、「帰宅途中に買い物をするために寄り道をしたら転倒した」というように勤務とは関係のないところで発生した事故や疾病は対象外になります。
また、労災保険の保険給付にはさまざまな種類があります。怪我や病気の治療費や休業する場合の補償費などの被害者に対して給付される制度だけではなく、被害者が死亡した場合に遺族に対して支給される制度もあります。
自賠責保険とは
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、損害保険会社や自動車の販売店で手続きをおこなう自動車を運転する際に必ず加入しなければいけない保険です。補償金は保険会社から支給されます。
自賠責保険は、業務中や通勤中の事故に対して利用できますが、業務とは関係のないときに事故があった場合でも利用できます。
労災保険と自賠責保険を併用できるケース
こちらの記事(交通事故で労災保険は使える?補償内容や申請方法を解説)では、交通事故に遭った時に労災保険の使用について解説致しました。交通事故に遭った場合に限らず、労災保険と自賠責保険を併用できるケースがあるので必ずチェックしておきましょう。
労災保険と自賠責保険を併用する場合は、「同じ損害項目で請求しない」という条件を満たす必要があります。
労災保険と自賠責保険で重複しているのは、以下の4つです。
- 怪我や病気の治療費
- 休業する場合の補償
- 遺族に対する補償
- 葬儀の費用
それぞれの補償項目について次項以降から詳しく解説します。
怪我や疾病の治療費
事故により生じた怪我や疾病の治療費のことです。
病院の診察代や治療費、薬代などが必要となる場合に支給されます。
休業する場合の補償
怪我や疾病により仕事を休業することになった場合に補償される費用です。
労災保険と自賠責保険では補償費が変わります。
労災保険はこれまでの平均収入から1日あたりの賃金を計算しその8割が1日あたり支給されますが、自賠責保険の場合は1日あたりの基礎収入が支給額となります。
労災保険における給付基礎日額の計算方法は以下になります。
- 事故前3ヶ月分÷事故前3か月の歴日数
自賠責保険における1日あたりの基礎収入の計算方法は以下になります。
- 事故前3か月の収入÷90日×休業日数
このように1日当たりの賃金の計算方法は労災保険も自賠責保険も大きな違いはありません。
支給額に関して、自賠責保険は支給額を割合で計算されないため、労災保険よりも支給額が増えるのが一般的です。ただし、自賠責保険には1日あたり19,000円の上限があります。
また、上記で労災保険の給付基礎日額の計算方法を紹介いたしましたが、一人親方などの特別加入者は事前に労働基準監督署に届け出た給付基礎日額で計算されます。一人親方の場合、給付基礎日額3,500円で特別加入している方が多いため、その場合の休業の補償は給付基礎日額の8割、つまり2,800円が1日当たりの補償額となります。
遺族に対する補償
被害者が事故により死亡した場合、本来得られるはずだった収入を遺族に対して補償する制度です。
会社員の場合、定年または平均的な退職年齢まで勤務した場合に得られるはずだった収入を計算し補償されますが、昇給や昇進したことを想定して計算することもあります。
また、家事従事者や学生、失業者が事故により死亡した場合は男女別の全年齢平均賃金額が基準になります。
葬儀の費用
被害者の葬儀を上げる場合、葬儀を行う人に対して支給されます。葬儀の費用は「葬祭料」とも言われますが、葬祭料は自動的に支給されるものではありません。
亡くなった翌日から2年以内に労働基準監督署に「葬祭料請求書」、通勤災害の場合は「葬祭給付請求書」を提出する必要があります。
同じ損害項目で二重請求はできない
同じ損害項目で二重請求できないことについて、具体的な例を挙げて詳しく解説します。例えば、月収30万円の会社員が通勤中に事故に遭い30日間休業することになった場合、労災保険の「休業補償給付」では平均収入の8割で計算されるため24万円支給されることになります。
一方の、自賠責保険の「休業損害」の場合は1日あたりの収入を計算しそのまま支給されるため、月収30万円の場合は30万円支給されます。
ただし、実際に支給されるのは労災保険の24万円か自賠責保険の30万円のどちらかです、合算されて54万円になるということではないので注意しましょう。
労災保険か自賠責保険のどちらを優先するか
交通事故の場合、労災保険か自賠責保険のどちらを優先的に利用するか選ぶことになります。基本的には支給額を多い方が選ぶといいでしょう。
例えば、休業する場合の労災保険は平均収入の8割が支給されるのに対し、自賠責保険は給料の満額と同額の支給が受けられるので自賠責保険がおすすめです。
ただし、すべてのケースで自賠責保険がおすすめというわけではなく、労災保険を優先的に利用した方がいいケースもあります。以下で詳しく説明致します。
事故の過失割合が自分の方が大きい
相手方がいる交通事故は過失割合を決めます。過失割合とは、双方にどの程度の過失があったのか決めることです。
例えば、停車中の車に前方不注意で衝突してしまった場合は、衝突した車の過失割合が多くなります。
- 交通事故の過失割合が相手よりも自分の方が大きい
- 過失割合が決まらず解決の目途が立っていない
自分の過失割合が大きい場合や、相手方と過失割合で揉めておりなかなか過失割合が決まらない場合があります。
このような場合は自賠責保険ではなく、労災保険がおすすめになることがあります。
理由として、自賠責保険や任意保険では20%~50%ほど保険金額が減額されてしまうため、支給額が少なくなってしまいます。
しかし、労災保険の場合は過失割合による減額がないため、支給額が多くなることがあります。
加害者が無保険
加害者が自賠責保険に加入していないケースでは、自賠責保険は使えないので労災保険を利用するしかありません。
また、自賠責保険には加入しているが任意保険に入っていない場合は労災保険を優先させた方がいいケースがあります。
賠償金は加害者が支払うことになるため、支払いができるだけのお金を持っていない場合は支払いがされるまでに時間がかかってしまうことがあります。
このような場合は、被害者側の保険を利用するなどをして支払いをしてもらうことになるため、手続きが面倒です。
労災保険は加害者ではなく国から支給されるので、手続きをすればきちんと支給されます。
長期の通院が必要になる場合
自賠責保険は損害部分の上限が120万円と上限規制があります。そしてこの120万円は治療費、休業損害、慰謝料の合算額です。大きい事故であれば、治療費だけで120万をオーバーすることも少なくありません。
そのため、長期の通院は保険会社から治療状況の確認があったりします。場合によっては治療中にも関わらず支払いが切り上げられることもあります。
一方の労災保険は上限規制がないので、自賠責保険と比較すると長期間の通院が認められやすいです。
まとめ
相手方の状況によってお勧めの保険が変わるため、しっかりとした調査が大切です。
労災保険は国、自賠責保険は保険会社とそれぞれ保険料の支払いがおこなわれる機関が変わります。また、自賠責保険の方が補償金を多く支払われるケースがありますが、自身の過失割合が大きい場合や相手の加害者が無保険の場合などは労災保険がおすすめだったりします。
相手方の状況によってどちらがおすすめなのか変わるため、まずはしっかりと調査ようにしましょう。