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労災保険の業務上疾病(職業病)認定基準をわかりやすく解説

 労働者が労災事故(業務災害)に遭う場合とは、例えば脚立上での作業中にバランスを崩して転落したり、道具の操作を誤り自身を傷つけてしまったり、現場に向かう途中に車に追突されてむち打ちになったり、歩行中に机に足をぶつけると言ったケースがあります。この場合、労災保険の給付を受けられるかどうかは個別に判断することになりますが、ポイントは雇用契約に基づいた作業又はその作業に関連した業務の中で起きた事故かどうかということになります。これはいわば災害性のある労災事故です。
 これに対して災害性のない労災事故というものもあります。特定の職業に従事し、それによって疾病を発症した場合は「職業病」として労災保険の給付を受け取ることができます。ただし職業病は自分で決められるわけではなく、厚生労働省が定めた認定基準を満たした場合にのみ、職業病として認められます。
 建設業の一人親方にとっても業務上疾病は他人ごとではありません。一人親方は労働者と異なり雇用契約ではなく請負契約で仕事をしていますが、基本的に労災保険の使用において労働者と異なることはほとんどありません。一人親方の場合、特定業務として粉じん作業、鉛業務、振動工具使用業務、有機溶剤業務に従事していた経験がある方は事前に健康診断を受診する必要があります。そういう意味においても一人親方は業務上疾病は他の職種よりも身近なものと言えるでしょう。どのような場合にどのような疾病が労災保険の補償対象なのか確認しておくといいでしょう。

 この記事では災害性のない業務上疾病(職業病)の認定基準を詳しく解説致します。

目次[非表示]

  1. 1.労災保険とは?
    1. 1.1. 労災保険の保険給付の種類
    2. 1.2.労災保険の適用範囲
    3. 1.3.労災とは?
  2. 2.労災保険の対象になる業務上疾病(職業病)
    1. 2.1.労災として認められている「職業病」一覧
    2. 2.2.職業病リストにない疾病
  3. 3.業務上疾病(職業病)の労災認定基準
    1. 3.1.腰痛を職業病として認定する際の基準
    2. 3.2.首・肩・腕などの異常を職業病として認定する際の基準
    3. 3.3.過労死を職業病として認定する際の基準
    4. 3.4.精神疾病を職業病として認定する際の基準
  4. 4.業務上疾病(職業病)に関する注意点
  5. 5.労災保険の使用が認められなかった場合
  6. 6.まとめ

 労災保険は業務中に発生した災害による負傷を補償する制度ですが、「職業病」と呼ばれる特定の仕事に就くことで発生する病気も補償の対象となります。
 職業病として労災保険の給付対象となる病気は厚生労働省によって定められており、万が一職業病を発症した場合は、直ちに労災保険を請求しなければなりません。ここからは労災保険の対象となる職業病一覧と、労災の認定基準、その他注意点など、各種情報を併せて解説していきます。

労災保険とは?

 業務上疾病(職業病)の解説をする前に労災保険について説明致します。労災保険は労働者の仕事中のケガや病気、あるいは通勤途上でのケガに対して労働者災害補償保険法に基づいて被災者に必要な給付を行います。

 労災保険の保険給付の種類

労災保険の保険給付には下表の7種類があります。


保険給付の種類
内容
療養(補償)給付
療養(補償)給付には以下の2種類があります。
  • 療養の給付(労災保険指定医療機関等で、無料で治療や薬剤の支給が受けられます。現物給付と呼ばれます。)
  • 療養の費用の支給(近くに労災保険指定医療機関がないなどの理由で、労災指定医療機関でない医療機関で治療や薬剤の支給などを受けた場合、鍼灸整骨院での施術、通院費、装具等制作の場合は、かかった費用を一旦被災者がその全額支払い、その額を労働基準監督署に請求します。このような給付方法を現金支給と呼びます。)
休業(補償)給付
療養のために労働することができないために、賃金を受けない日が4日以上になる、という条件がそろった場合には、休業1日について給付基礎日額の60%相当額が支給
※ 通常、休業特別支給金が給付基礎日額の20%があわせて支給されるため80%と説明することが多い
傷病(補償)年金
休業(補償)給付を受けている被災者が療養開始後1年6か月以降、一定の傷病に該当した場合に労働基準監督署長の職権で決定します。
障害(補償)給付
傷病の治療を受け、治癒したときに、一定の障害が残っていた場合に支給
遺族(補償)給付
業務または通勤による傷病により死亡したとき、その遺族に支給
介護(補償)給付
障害等級・傷病等級が第1級の被災労働者と第2級で「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している被災労働者が現に介護を受けている場合に支給さ
葬祭料(葬祭給付)
業務または通勤による傷病により死亡し、その葬儀を行った場合、その葬祭を行うにふさわしい方に対し、葬祭料(葬祭給付)が支給

労災保険の適用範囲

 労災保険は正社員、パート・アルバイト等雇用形態に関係なく雇われている場合には必ず適用される国の強制保険です。
 建設業の一人親方や個人タクシーの運転手のように雇用契約によらず仕事をしている方については労災保険の特別加入という制度を利用することで労災保険に加入することができますが、あくまでも加入は任意となります。

労災とは?

 労災は労働災害、あるいは労災事故とも言い、業務災害と通勤災害の2種類に大別されます。
 業務災害は仕事中のケガや病気に対して必要な保険給付を行います。ただし、仕事中であっても業務に関係のない私的な行為に対しては保険給付はされません。
 通勤災害は通勤途上でのケガに対して必要な保険給付を行います。通勤において通勤経路から逸脱したり、通勤とは関係のない行為は保険給付の対象となりません。ただし、スーパーでの日用品等の購入に関しては保険給付の対象となります。

労災保険の対象になる業務上疾病(職業病)

 労災保険の給付には脚立から転落のような明らかな外傷とは別に業務上疾病という分類があります。業務上疾病とはある作業に長期間・長時間にわたって従事していたために発症したもので、そのため発症原因が業務によるものかどうかの判断が非常に難しいケースが多いのも特徴です。支給申請にあたりまず最初にやるべきことは証拠集めとなります。
 また、職業病は個人で決められるわけではなく、厚生労働省が「職業病リスト」として一覧で詳しく発表しています。このリストおよび、別冊の厚生労働大臣指定の疾病に限り、職業病として認められます。
 業務上疾病は無制限に認められるわけではありません。労災保険法では労働基準法に規定する災害が生じた場合に必要な保険給付を行うと定め、それを受けて労働基準法は業務上の疾病及び療養の範囲を厚生労働省令で定めるとしています。これに基づき労働基準法施行規則第35条は具体的な業務上疾病を別表第1の2に列挙しています。これらについては業務と疾病との間の因果関係が医学的に確立しており、特段の反証がない限りは労災保険の給付が認められます。この別表1の2は別名職業病リストとも呼ばれ、リストにある業務に従事している方がリストにある疾病になった場合にある一定の証拠があれば労災保険の給付をしますというものです。なお、職業病リストの目的は被災者の業務上疾病であることを証明するための負担を軽くするためにあります。

労災として認められている「職業病」一覧

 現時点で公開されている職業病リストの一覧は次の通りです。ただし、あくまでも分かりやすくお伝えするための概要なので、一部を簡略化しています。詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。

  • 業務上の負傷に起因する疾病

  • 物理的な原因による疾病で次に掲げるもの

  1. 紫外線にさらされる業務による眼疾患または皮膚疾患
  2. レーザー光線・マイクロ波にさらされる業務による眼疾患または皮膚疾患
  3. 電離放射線にさらされる業務による放射線障害
  4. 高圧室内作業または潜水作業の業務による潜水病など
  5. 気圧の低い場所における業務による高山病など
  6. 熱中症
  7. 火傷
  8. 凍傷
  9. 難聴
  10. 超音波による組織壊死
  • 身体に過度の負担のかかる作業が原因となる疾病

  1. 重激な業務による筋肉、腱、骨若しくは関節の疾患または肉離れ
  2. 重量物を取り扱う業務や腰に負担のかかる不自然な姿勢で行う業務による腰痛
  3. 身体に振動を与える業務による手指、前腕などの運動器障害
  4. 電子計算機への入力を反復して行う業務など上半身に負担のかかる業務による運動器障害
  • 化学物質などによる疾病

  1. 厚生労働大臣の指定する化学物質にさらされる業務による疾病
  2. 合成樹脂の熱分解生成物にさらされる業務による眼粘膜の炎症・呼吸器疾患
  3. 樹脂硬化剤にさらされる業務による皮膚疾患
  4. 蛋白分解酵素による疾病
  5. 粉じんや抗生物質によるアレルギー性鼻炎や呼吸器疾病
  6. 石綿(アスベスト)にさらされる業務による良性石綿胸水またはびまん性胸膜肥厚
  7. 酸素欠乏症
  • その他、粉じんが発生する作業場所において、じん肺症またはじん肺法で定められている疾病

  • 細菌、ウイルスなどの病原体による疾病

  1. 看護や介護における伝染性疾患
  2. 動物を取り扱う業務における伝染性疾患
  3. 湿潤地におけるワイル病などのレプトスピラ症
  4. 屋外における業務によるツツガムシ病
  • がん原性物質若しくはがん原性因子またはがん原性工程における疾病

  • 脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止・解離性大動脈瘤など疾病

  • 心理的に負担を与える業務による精神疾病

  • その他、厚生労働大臣の指定する疾病

  • その他業務に起因することの明らかな疾病

 職業病として認められている疾病は幅広く、鉱業、製造業、医師、看護師など、職種ごとの環境に応じて明確に定められています。
 特に熱中症や火傷、精神的な疾病も労災として認定されます。職場の環境が悪く、熱中症を起こしそうだ、精神的に辛い状況が続いているなどの状況は職業病として認められるのがポイントです。

職業病リストにない疾病

 職業病リストがすべての業務と疾病を網羅しているわけではありません。職業病リストに規定されていない疾病は「その他業務に起因することの明らかな疾病」により個別具体的に判断することになります。事実、今でこそ職業病リストの第8号と第9号(下記に引用)に過労死や精神障害に関する項目がありますが、平成22年に追加されるまでは過労死や精神障害に関しては「その他業務に起因することの明らかな疾病」により給付請求をしてきました。そのため職業病リストにない疾病だからと言って労災保険給付が直ちに受けることができないというわけではありません。

八 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病

九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

業務上疾病(職業病)の労災認定基準

 職業病は労災認定されるのに厳しい基準があります。中でも精神疾患に関する認定基準は精神疾患の研究がまだ進んでいないこともあり、評価が難しいのが特徴です。
 ただし、どの職業病であっても、業務に従事したことが原因で発症したのを厳しくチェックします。例えば無理な姿勢を強いられる作業で腰痛を発症した場合は、労災認定されます。

腰痛を職業病として認定する際の基準

 腰痛を職業病として認定する際は、「災害性腰痛」と「非災害性腰痛」の2種類に分けられます。
 災害性腰痛とは普段の日常生活では起こらないような、強い力が突発的に起こったことで腰痛を発症させた状況を指します。ポイントは普段とは違った強い力が加えられたことが認められており、なおかつ強い力が腰痛の原因になっているか、医学的に認められていることです。
 また、非災害性腰痛は慢性的な疲労の蓄積によって発症する腰痛で、かがんだ姿勢で作業を続けたり、重いものを持ちすぎたりなどが非災害性腰痛として認められます。こちらも同様、原因がはっきりしており、その原因によって腰痛が引き起こされているか医学的に証明できることがポイントです。

首・肩・腕などの異常を職業病として認定する際の基準

 首・肩・腕(上腕から前腕にかけて)のハリや痛みが発生している状態を「頸肩腕障害(けいけんわんしょうがい)」といいます。腕だけでなく手首に発症する炎症なども対象に含まれます。

 頸肩腕障害が労災として認定されるには、

  • 反復運動の多い作業
  • 上肢を長時間上げたままで行う作業
  • 姿勢が固定される作業
  • 特定の箇所に負担がかかる作業

 のいずれかを「6カ月以上」行っており、他の労働者と比べて過重な業務になっていた場合に認められます。

 この「過重な業務」には明確な基準がありますが、基準から外れていても

  • 長時間の連続作業を行っていた
  • 作業ペースが異常な速さだった
  • 重量負荷がかなりかかっていた
  • 職場環境が悪かった

 などの状況があれば、事情や作業背景を総合的に判断されます。

過労死を職業病として認定する際の基準

 過労死は、脳または心臓疾患の職業病として認められます。こちらも他の職業病と同じく、業務が脳・心臓疾患に関与していたかが重要で、発症した時期付近の労働時間と、業務にかかる負荷を考慮します。

 業務が過労死のラインに当てはまるかどうかは

  • 労働時間
  • 勤務形態
  • 職場環境
  • 精神的な緊張があったかどうか

 などをもとに評価を行います。

 実際には

  • 脳出血
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止
  • 解離性大動脈

 が対象の疾患として認められています。

精神疾病を職業病として認定する際の基準

 職業病として認められる疾病は「国際疾病分類第10回修正版第5章」で定められる精神障害で、

  • 認知症
  • 頭部外傷による障害
  • うつ病
  • 急性ストレス反応

 などが認められています。

 身体に現れる疾病と比べると認定基準が難しく、業務上で発生した心理的負荷が精神疾病の原因となっているかが認定条件です。

業務上疾病(職業病)に関する注意点

 職業病として労災保険を申請する場合は期限に注意しましょう。自分または従業員が職業病にかかり、治療を開始した場合や仕事を休んだ場合は労災保険の給付金を受け取る申請が必要です。

 労災保険のうち、代表的な給付の時効は次の通りです。

  • 療養給付:療養のための費用を支出した翌日から2年
  • 休業給付:仕事を休んで賃金を受け取らない日の翌日から2年
  • 遺族年金:労働者が無くなった日の翌日から5年
  • 傷病年金:時効無し
  • 障害給付:治癒した日の翌日から5年

 期限を過ぎると受け取れなくなるので、しっかり期限内に提出しましょう。早めに動くのが大切です。

労災保険の使用が認められなかった場合

 業務上疾病(職業病)は仕事中でのケガに比べて申請が非常に難しいと言われています。申請したからと言って労災保険の使用が認められるとは限りません。その場合、協会けんぽの健康保険に加入している方であれば傷病手当金の受給の可能性があります。
 傷病手当金の支給要件は労災保険の休業【補償)給付と似ています。傷病手当金の支給要件は下記ですが、休業【補償)給付と違い支給期間は1年6か月です。また、支給金額は凡そ賃金の3分の2です(実際には傷病手当金の支給金額は報酬月額を元に計算しますので、凡そ賃金の3分の2は目安と考えてください。)

  • 業務外のケガや病気により仕事を休んでいる
  • 休んでいる間、給与の支給を受けることができない
  • 連続して4日以上安いんでいること

まとめ

 一定の条件を満たせば「職業病」として認められ、労災保険が受け取れます。
 ある職業に従事しており、その職業が明確な原因となって、何らかの疾病を発症した場合は職業病として労災保険が支給されます。
 基準は職業や状況ごとに詳細まで細分化されており、熱中症や火傷、精神疾病も状況によって労災認定されるのがポイントです。 安全第一が一番ですが、万が一の事態が発生した場合は期限内にしっかり申請を行い、給付を受け取りましょう。
 業務上疾病の場合、証拠が非常に重要視されます。一人親方の場合は雇用関係にないため労働者なら通常あるべきタイムカードや賃金台帳といったものがありません。そのため、日頃から家を出発した時間から家に帰ってきた時間までを記録し、また請負契約書等ファイリングをして記録を保管し従事していた業務の詳細を保存しておく必要があります。

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