労災のアフターケア制度とは?対象となる20の傷病や手続き方法を解説
労災のアフターケア制度をご存じですか?労災のアフターケア制度とは、仕事または通勤時に患った疾病のうち対象となる疾病が治ったあとも、再発予防や後遺障害に伴う新たな疾病を予防するために、労災保険指定医療機関で診察や検査などを無料で受診できる制度です。
労災を詳しく知るうえで、このアフターケア制度が適用となる20の疾病や、アフターケア制度の申請・手続きの流れなどについてチェックしていきましょう。
目次[非表示]
- 1.労災のアフターケア制度とは?
- 2.労災のアフターケア制度で対象となる20の傷病
- 3.手続きの流れや方法
- 3.1.健康管理手帳の交付までの流れ
- 3.2.申請期限
- 3.3.通院費も支給される
- 4.まとめ
労災のアフターケア制度とは?
そもそも「労災」は、仕事中または通勤途上でケガや病気をした方に対し、治療費などを給付する制度です。それに対して「労災のアフターケア制度」とは、仕事中または通勤途上で患ったケガや病気から完全に回復、または症状が安定した場合に、疾病の再発予防や後遺障害から引き起こされる新たな病気を予防する目的で、必要な診察や保険指導などを無料で受けられる制度です。
アフターケアの対象疾病であれば、疾病が回復した後もしっかりフォローしてもらえるので。労働者にとっては非常に心強い制度です。
ただし、このアフターケア制度を利用するためには、事業場を管轄する都道府県労働局長への申請が必要となりますので、アフターケア制度の利用を検討している場合は、忘れずに申請しましょう。
そこで、まずはアフターケア制度の対象となる20の疾病と障害等級規定について順番にチェックしていきましょう。
労災のアフターケア制度で対象となる20の傷病
労災保険制度では、業務災害または通勤災害により被災された方に対して、その方の症状が固定した治癒後においても、後遺症状に動揺をきたしたり、後遺障害に付随する疾病を発症させるおそれがあることから、必要に応じ予防その他の保険上の措置としてアフターケアを社会復帰促進等事業として実施しています。
対象となる傷病として、以下の20の傷病があります。アフターケアを受けるためには健康管理手帳の交付を受ける必要があります。
傷病名 |
障害等級規定 |
せき髄損傷 |
障害等級第3級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第4級以下の障害(補償)給付を受けている方 |
頭頸部外傷症候群等 |
頭頸部外傷症候群・頸肩腕障害・腰痛を発症した方で、障害等級第9級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方 |
尿路系障害 |
尿道狭さくの障害が残った方、あるいは尿路変向術を受けた方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 尿路系腫瘍を発症し、療養補償給付を受けている方 |
慢性肝炎 |
ウイルス肝炎を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
白内障等の眼疾患 |
白内障、緑内障、網膜剥離、角膜疾患、眼瞼内反等の眼疾患を発症し、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 障害(補償)給付を受けていなくても医学的にアフターケアが必要と認められた方 |
振動障害 |
振動障害を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
大腿骨頸部骨折および股関節脱臼。脱臼骨折 |
大腿骨頸部骨折や股関節脱臼、脱臼骨折を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 障害(補償)給付を受けていなくても医学的にアフターケアが必要と認められた方 |
人工関節、人工骨頭置換 |
人工関節または人工骨頭の置換を行った方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
慢性化膿性骨髄炎 |
化膿性骨髄炎を発症し、慢性化膿性骨髄炎に移行した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
虚血性心疾患 |
虚血性心疾患を発症した方で、障害等級第9級以上の障害補償給付を受けている方、受けると見込まれる方 医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方 |
尿路系腫瘍 |
尿路系腫瘍を発症し、療養補償給付を受けている方 |
脳の器質性障害 |
外傷による脳の器質的損傷・一酸化炭素中毒・減圧症・脳血管疾患・有機溶剤中毒等による脳の器質性障害を発症した方で、障害等級第9級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方 |
外傷による抹消神経損傷 |
外傷による末梢神経損傷の疼痛が残る方で、障害等級第12級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
熱傷 |
熱傷により、障害等級第12級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
サリン中毒 |
サリン中毒により、療養(補償)給付を受け、以下のような後遺症によりアフターケアが必要だと認められる方
|
精神障害 |
精神障害を発症し、療養(補償)給付を受け、以下のような後遺症によりアフターケアが必要だと認められる方
|
循環器障害 |
心臓弁を損傷した・心膜の病変障害を残している・人工弁に置換した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 人工血管置換を行なった方で、医学的にアフターケアが必要と認められた方 |
呼吸機能障害 |
呼吸機能障害を残す方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
消化器障害 |
消化吸収障害等を残す方もしくは消化器ストマを造設した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方 |
炭鉱災害による一酸化炭素中毒症 |
炭鉱災害による一酸化炭素中毒で療養(補償)給付を受けていた方 |
手続きの流れや方法
労災のアフターケア制度で対象となる疾病を患い、労災のアフターケア制度を利用したいという方は、必ず所属する事業場を管轄する都道府県労働局への申請が必要となります。
疾病によっては申請期間が決まっている場合があり、また、アフターケア制度の有効期間も異なります。まずは労災のアフターケア制度を申請する際の流れや、有効期限などについてしっかりとチェックをしましょう。
健康管理手帳の交付までの流れ
労災のアフターケア制度を新規で申請する場合の流れは、以下のとおりです。
- 労災の条件に該当するケガや病気の治癒
- 所属する事業場を管轄する都道府県労働局長宛に「健康管理手帳交付申請書」を提出
- 提出した労働局内で内容を審査
- 「健康管理手帳の(新規)交付・更新申請に係る交付・不交付決定通知書」が送付される
審査の結果交付が決定した場合は、健康管理手帳が手元に届いたら労災保険指定医療機関に手帳を提示したうえでアフターケアを受ける流れとなりますので、健康管理手帳が届く前の受診は注意しましょう。
もし、審査の結果「不交付」となってしまった場合は、厚生労働大臣に対して決定があったことを知った日の翌日から3ヵ月以内に再審請求をすることができます。
また、健康管理手帳を更新したい場合は、手帳の有効期限満了日の1ヵ月前までにあらためて「更新手続き」が必要です。
申請期限
労災のアフターケア制度を新規で申請するには、申請期限が設けられています。基本的にはケガや病気が治った日の翌日から、健康管理手帳の新規交付の有効期間として定められた期間内となっており、その期間は疾病によって異なるので注意しましょう。
健康管理手帳の更新手続きを行なう場合は、所属する事業場を管轄する都道府県労働局長から、事前に自宅宛に「健康管理手帳の有効期間満了のお知らせ」が郵送されます。具体的な申請期限は、すでに交付されている健康管理手帳の「有効期限の1ヵ月前まで」となっています。
なお、疾病によっては、更新時に医師による診断書が必要となるものもありますので、必ずご自身の疾病について確認をしてから更新手続きを行ないましょう。
通院費も支給される
労災のアフターケアを受けている方に対し、経済的な負担を減らすために「アフターケアの通院に要する費用」(以下「アフターケア通院費」)についても支給しています。
アフターケア通院費が支給されるには、以下の条件があります。
- 自宅または勤務先から、鉄道、バス、自家用車など を利用して片道2キロメートル以上、同一市町村内 にあるアフターケアを受けることができる医療機関へ通院するとき
- 片道2キロメートル未満であっても、ケガや病気の状態から鉄道、バス、自家用車などを利用しなければ通院することができないとき
- 同一市町村内にアフターケア を受けることができる 医療機関がないため、または隣接する市町村の医療 機関の方が通院しやすいため、隣接する市町村のア フターケア を受けることができる医療機関へ通院するとき
- 同一市町村及び隣接する市町村内にアフターケアを 受けることができる医療機関がないため、それらの市町村以外の最寄りのアフターケアを受けることができる医療機関へ通院するとき
引用:仕事によるケガや病気で療養中の方、治った方へ「アフターケア制度」のご案内/厚生労働省
このアフターケア通院費に関しても申請が必要となりますので、該当する場合は所属する事業場を管轄する都道府県労働局長へ申請しましょう。
まとめ
労災のアフターケア制度は、患者さんやその家族にとって非常に大きな手助けとなる制度です。知っていると知らないとでは大きな差となりますので、患者さんご自身の疾病がアフターケア制度の疾病であるかを確認し、対象である場合は忘れずに申請をすることが大切です。
また、疾病によっては申請期限があるもの、更新手続きができないものなどもありますので、注意しましょう。