労災保険の休業補償とは?支給条件と申請方法を徹底解説
業務中、もしくは通勤中のケガや病気によってやむを得ず働けなくなってしまったとき、欠勤控除などで賃金を受け取ることができなければ、生活がままならない人もいるでしょう。そんなとき、労災保険の休業補償を利用することで、給料の一部を給付金として受け取ることができるかもしれません。
今回は、休業補償の支給条件や給付額の計算方法などを詳しく解説します。休業補償が必要な労働者、労働災害が起きてしまった会社双方に知っておいてほしい内容なので、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.労災保険の休業補償とは
- 2.労災保険による休業補償の支給条件
- 3.休業補償の給付額
- 3.1.給付基礎日額
- 3.2.一部負担金
- 3.3.給付額の計算方法
- 3.4.複数事業労働者の場合
- 4.労災保険の休業補償を申請する方法
- 4.1.その他必要な添付物
- 5.給付をすぐに受け取れる受任者払い制度
- 6.まとめ
労災保険の休業補償とは
労災保険の休業補償とは、業務中もしくは通勤中のケガや病気が原因で労働することができず、賃金を受けられなくなった労働者に対し、給付金を支給する制度です。休業の初日から3日目までは待機期間とされ、4日目から休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。
休業補償給付は、賃金を受け取れない日(休業する日)ごとに請求権が発生します。ただし、権利が発生した翌日から2年が経過すると時効となって請求権が消滅するので注意が必要です。
対象者
労災保険の休業補償は、正社員・パート・アルバイトなど、会社と直接契約のあるすべての労働者が対象です。ただし、派遣社員や請負契約といった直接契約がない労働者は対象外となってしまいます。
給付の種類
休業補償には、休業補償給付、休業給付、複数事業労働者休業給付の3種類があります。それぞれ給付の事由が異なるため、自分がどの補償に適用されるのか事前に確認しておきましょう。
- 休業補償給付
業務上の負傷や疾病によって働けなくなった場合に受けられる給付
- 休業給付
通勤中の負傷や疾病によって働けなくなった場合に受けられる給付
- 複数事業労働者休業給付
被災した時点で複数の会社で働いている人が、業務上、もしくは通勤中の負傷や疾病によって働けなくなった場合に受けられる給付
令和2年9月1日に労働者災害補償保険法が改正され、複数事業労働者に対する休業給付に変更がありました。これまでは業務災害の原因となった勤務先の基礎賃金から給付金額が決定していましたが、改正後はすべての勤務先の賃金を合算した額を基礎として給付金額が決定します。
また、労災認定に関しても、それぞれの勤務先の労働状況(勤務時間やストレスなど)を総合的に判断して労災認定が下されるようになりました。
労災保険による休業補償の支給条件
労災保険の休業補償給付を受けるためには、以下3つの条件をすべて満たしている必要があります。どれか一つでも満たしていない事項があった場合には、休業補償を受けることができないので注意してください。
療養している
休業補償の支給を受けるには、労働者が業務中もしくは通勤中のケガや病気が原因で療養している必要があります。この療養には、入院はもちろん医師の指示による自宅療養も含みます。
労災の休業期間は医師の指示をもとに計算されるため、診断書を用意しておくことでトラブルなく支給を受けることができるでしょう。
労働できない状態
療養によって仕事ができない状態であることも、休業補償給付の条件です。労働上のケガや精神的なダメージなどによって、労働することが困難であると判断される場合のみ給付の条件を満たすことができます。
賃金を受けていない
休業期間中に会社から賃金の支給を受けていないことも条件の一つです。平均賃金の60%以上の賃金を受け取っている場合、休業補償給付は対象外となってしまいます。ただし、賃金としてではなく補償金であれば問題ありません。
この3つの条件がすべて揃ったとき、休業4日目から1日単位で休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。
業務災害の場合、休業初日から3日目までの待機期間は労働基準法に基づいて事業主から休業補償(1日につき平均賃金の60%以上)が行なわれなければなりません。
待機の起算日について、事故当日の所定労働時間内に病院へ行った場合は、事故当日を休業の起算日として扱うことができます。しかし、所定労働時間外や翌日などに病院へ行った場合は、事故当日の翌日が休業起算日となるので注意が必要です。
休業補償の給付額
休業補償の給付額は、給付基礎日額と休業日数をもとに算出されます。給付基礎日額の計算方法がわかれば給付額がおおよそ把握できるので、参考にしてみてください。
給付基礎日額
給付額は「給付基礎日額」で計算されるのが一般的です。
給付基礎日額とは、業務要因災害の発生が確定した日の直前3ヵ月間に支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時賃金は除く)を、日数で割った1日あたりの金額のことです。これは労働基準法における平均賃金に相当します。
複数の会社で働いてる場合は、1つの会社のみの業務上の負荷によって労災認定されたとしても、各会社の賃金を合算した金額から給付基礎日額が決定されます。
一部負担金
通勤災害の場合、一部負担金として200円(日雇特殊被保険者の場合は100円)が減額されます。一部負担金は休業給付からの控除として支払うものなので、実際に休業給付を受け取る人以外には発生しません。
通勤災害の場合、基本的に事業主の支配下で起きるものではありません。労働基準法には事業主の補償規定が存在しないので、受益者の一部負担金が設けられています。
給付額の計算方法
それでは、実際の給付額の計算方法を見てみましょう。
- 一の事業場のみで働いている労働者の場合
休業補償給付・休業給付=(給付基礎日額の 60%)×休業日数
休業特別支給金=(給付基礎日額の 20%)×休業日数
複数事業労働者の場合
休業(補償)等給付=(複数就業先に係る給付基礎日額に相当する額を合算した額の60%)×休業日数
休業特別支給金=(複数就業先に係る給付基礎日額に相当する額を合算した額の20%)×休業日数
業務災害の場合は休業初日から3日間は待機期間となり、この間は事業主によって休業補償(1日につき平均賃金の60%)が行なわれます。また、通院のため遅刻や早退をした場合でも、給付基礎日額からその間の分の賃金を控除した額の60%が支給されます。
労災保険の休業補償を申請する方法
休業補償給付を申請する際は、労働者本人が必要書類を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります。休業期間が長くなる場合は1ヵ月ごとに請求するのが一般的です。
休業特別支給金についても様式は同じで、休業補償等給付と一緒に申請する必要があります。休業補償給付金を受け取れるのは、申請から約1ヵ月以上かかる場合が多い傾向にあり、その間は預貯金で生活しなければなりません。
<必要書類>
- 休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号) 業務災害の場合
- 休業給付支給請求書(様式第16号の6) 通勤災害の場合
記入する項目は、氏名・住所・性別・生年月日の個人情報や口座番号、職種、労働災害が発生した日時と経緯、平均賃金、事業主の証明、診療担当者の証明などです。平均賃金については、直近3ヵ月の賃金を「平均賃金算定内訳」から参照して記入します。
もし、事業所に書類の用意がない場合は、労働基準監督署へ直接赴いて書類をもらいましょう。厚生労働省の「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロード・印刷した書類を使うこともできます。
その他必要な添付物
また、必要に応じて別紙の証明書類などが必要な場合があります。休業補償と同一の理由で障害厚生年金・障害基礎年金等の支給を受けている場合は、支給額を証明する書類が必要です。
また、所定労働時間に療養で休業した日が含まれている場合は、「様式8号」または「様式16号の6の別紙2」が必要になります。
複数事業労働者の場合は、必要書類に記入した事業所以外の事業所について記載された別紙1~3が必要です。その他、別の書類が必要になる場合もあるので、必要に応じて対応できるように心がけておきましょう。
給付をすぐに受け取れる受任者払い制度
休業給付は、所定の書類を労働基準監督署へ提出してから実際に給付金を受け取るまでに、1ヵ月程度の時間を要します。しかし、給付金を受け取るまでの間は賃金の支払いがないため、預貯金による生活を余儀なくされてしまいます。
そのような場合は、給付金をすぐに受け取ることができる「受任者払い」を活用しましょう。
受任者払い制度は、労災保険ではなく会社から給付金が支払われる制度です。給付金を会社が立替え、労災保険から後日会社に給付金が振り込まれることで、労働者がすぐに給付金を受け取ることができます。
受任者払いを利用するには、会社が以下の書類を管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
<必要書類>
- 給付を受ける労働者の委任状
- 受任者払いに関する届け出書
ただし、都道府県によって申請書類の書式が異なる場合もあるので、事前に問い合わせると安心です。通常どおり休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号)、休業給付支給請求書(様式第16号の6)も必要になるので、忘れずに準備しましょう。
受任者払い制度を利用すれば、従業員は安心して治療に専念できます。早期復帰につながれば、会社にとっても従業員にとってもメリットが多いので、休業補償が必要な際は積極的に利用してみてください。
なお、この受任者払いについては一人親方は対象外となっていますので、ご注意ください。
まとめ
労災保険の休業補償は、労働者が業務中、もしくは通勤中にケガや病気を負いやむを得ず働けなくなってしまったときに重要な救済制度です。休業補償を受けるには、療養している、労働できる状態ではない、賃金を受け取っていない、という3つの条件を満たしている必要があります。
従業員が1人でもいる会社は労災保険の加入が義務となっているので、もし休業補償の給付が必要になったときは積極的に利用してみてください。
労働災害は会社にとっても、従業員にとっても避けるべきことですが、注意を払っていればすべて避けられるというわけでもありません。万が一労働災害が起こってしまったときのために、あらかじめ申請の手順や必要な書類などを確認しておきましょう。