労災上乗せ保険とは?概要やメリット、事業主への補償保障を解説
1人だけでも労働者を雇っている場合、事業主は労災保険の加入が義務付けられています。しかし、労災保険で補償されるのは必要最低限の範囲内であり、慰謝料や見舞金などは補償されません。
労働者が補償に納得できず、事業主が請求を受けるような場面があった場合、双方にとっての大きなサポートとなるのが「労災上乗せ保険」です。
この記事では、労災上乗せ保険の役割や、必要とされる背景にある問題について解説します。加入を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.労災上乗せ保険とは?政府労災との違いとメリット
- 1.1.政府労災の補償を補う法定外補償保険
- 1.2.経費として保険料を支払える
- 1.3.一人親方も加入できる
- 2.労災上乗せ保険の補償内容
- 2.1.法定外補償保険に加入する
- 2.2.使用者賠償責任補償保険
- 2.3.必要な補償特約を選べる
- 3.加入を求められる背景
- 3.1.元請けに影響をおよぼす
- 3.2.政府労災における休業補償は80%
- 4.労災上乗せ保険への加入で注意すべき点とは
- 4.1.扱う会社によって補償内容が異なる
- 4.2.加入している特約内容の重複
- 4.3.一人親方でも契約できるか事前に確認する
- 5.まとめ
労災上乗せ保険とは?政府労災との違いとメリット
労災上乗せ保険とは、一体どのような制度なのでしょうか。一般的な労災との違いや労災上乗せ保険の概要を解説します。
政府労災の補償を補う法定外補償保険
一般的に事業主が加入する労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者災害補償保険法に基づいた社会保険制度で、政府労災と呼ばれることもあります。
従業員が業務中や通勤中に負傷した、あるいは病気になってしまった場合、ケガの治療や入院のために休業を要する可能性があるでしょう。このとき、労災に加入していれば「休業補償」や「療養補償」など、状況に合った項目の補償を受けられます。
一方、労災上乗せ保険は、政府労災では賄いきれない部分を上乗せすることで補償される任意の民間損害保険制度です。労災上乗せ保険は、大きく分けると以下の2種類があります。
- 法定外補償保険:政府労災の不足分をカバーする
- 使用者賠償責任補償保険:事業主が損害賠償を請求された際の費用をカバーする
また、保険会社によっては、業務外で起きた病気を上乗せでカバーする特約などもあり、福利厚生のような手厚い補償を上乗せで受けることも可能です。
経費として保険料を支払える
労災上乗せ保険の保険料は、基本的に全額経費扱いにできます。ただし、個人事業主(いわゆる一人親方など)の場合は、必要経費として扱えません。
従業員のための労働保険は経費扱いになりますが、個人事業主の任意保険料は「社会保険控除」になるため、帳簿管理の際は注意が必要です。
一人親方も加入できる
基本的に一人親方は事業主として扱われるため、労働者への補償を目的とする政府労災に加入することはできません。しかし、業務における危険性は労働者と同等といえるため、一人親方でも補償を受けられる「労災保険特別加入制度」があります。
労災上乗せ保険は、一人親方の場合でも加入できるため、特別加入制度とは別にぜひ労災上乗せ保険へは加入しておきたいところです。
例えば、雇ったアルバイトが負傷した場合、損害賠償の請求を受ける可能性もあります。賠償請求の金額は高額になることが予想されるため、事業主が支払うことを考えると、経営状況に大きな影響を与えるでしょう。
労災上乗せ保険に加入していれば、そのような事態に見舞われた際にも補償を受けられるため、労災の補償を上乗せすることはリスクヘッジにもなるので加入をおすすめします。
労災上乗せ保険の補償内容
ここからは、労災上乗せ保険に加入することで受けられる補償内容を、具体的に解説します。事業内容に見合った補償を受ける際の参考にしてください。
法定外補償保険に加入する
法定外補償保険で受けられる基本的な補償内容としては、死亡、後遺障害保険金や入院給付金、通院給付金などが挙げられます。
補償金額は、死亡した場合は満額、後遺障害の場合は等級に応じた金額、入院や通院の場合は日数に応じた金額です。なお、対象となるのは、あくまでも業務による負傷や疾病であることを覚えておきましょう。
また、負傷などによる入院・通院で休業を要した場合でも、休業している従業員への給与支払いを滞らせてはなりません。労災上乗せ保険では休業補償も出るため、休業中でも従業員への給与支払いの心配がなくなります。
その他、法定外補償保険には、次項で解説する使用者賠償責任補償保険での金額が確定するまで、必要な諸費用をカバーする役割もあります。
使用者賠償責任補償保険
政府労災に期待できるのは、最低限の生活保障であり、慰謝料などは含まれていません。
事業主としては十分に安全配慮していたつもりでも、従業員や遺族が納得できない場合は、損害賠償を請求される可能性も考えられます。
損害賠償の請求金額は、高額になることが予想され、場合によっては億単位の請求を受けることもあるほどです。また、賠償費用だけではなく、裁判費用や和解金などの諸費用も必要になります。このような場合に、賠償金や裁判費用をカバーしてくれる補償が「使用者賠償責任補償保険」です。
ただし、賠償金額が確定するまで補償金は支払われないため、それまでにかかった費用は法定外補償保険で補います。
必要な補償特約を選べる
企業を取り巻く環境は日々変化し続け、現代ではさまざまなリスクへの対応が求められるでしょう。例えば、過労死やセクハラ・パワハラなどによる精神疾患にも目を向けなければなりません。
政府労災による補償では、精神的ダメージに対する慰謝料などは含まれていないため、損害賠償を請求される可能性は極めて高いといえるでしょう。
労災上乗せ保険では、精神疾患の補償に備えた「労災認定身体障害追加補償」や、ハラスメントによる損害賠償責任をカバーできる「雇用慣行賠償責任補償」も付帯できます。
現代社会のおける多くのリスクに対応するためにも、労働環境に合った特約を付帯し、万が一に備えることが重要です。
加入を求められる背景
近年、労災の特別加入をしているにもかかわらず、労災上乗せ保険への加入が求められる場面があります。ここでは、その背景にある企業の事情や問題について解説します。
元請けに影響をおよぼす
建設現場内では多くの作業員が働いており、現場で事故が起これば、たとえ下請け業者が雇ったアルバイトの負傷でも、元請けにまで責任がおよびます。
責任を追及された元請けには、賠償金など金銭面の問題だけではなく、風評被害がおよぶことも考えられるでしょう。
そのような理由からか、労災特別加入だけではなく、労災上乗せ保険にも加入している一人親方しか現場に入れないこともあるようです。下請けが賠償責任を負えない場合は元請けにも影響が出るため、下請け業者の段階で問題を解決できるような会社にのみ委託する企業も存在します。
政府労災における休業補償は80%
政府労災に加入していれば、ケガの治療や入院による補償、療養にともなう休業補償などが受けられます。しかし、政府労災による休業補償は賃金の80%と定められているため、十分な補償とはいいきれません。
休業を余儀なくされた労働者としては、業務によるケガで療養中の生活費が減ってしまうと考えると、納得できないこともあるでしょう。
今後も誰かを雇う可能性がある場合は、100%休業補償を出せるよう労災上乗せ保険に加入すべきといえます。
労災上乗せ保険への加入で注意すべき点とは
労働者に対する補償や事業主のリスク管理のためにも、労災上乗せ保険の加入時に注意すべき点について把握しておきましょう。
扱う会社によって補償内容が異なる
労災上乗せ保険を扱っているのは、民間の損害保険会社です。保険会社によって扱っている特約や補償内容は異なり、どこまでカバーできる補償にするかは事業主が選ぶことになります。そのため、事業内容に合わせて自由にカスタマイズし、起こりうるリスクを最小限に抑えることが可能です。
入院給付金や通院給付金においても、1日あたりの給付金額を設定できます。十分な補償を実現させるためには、起こりうるケガや病気の治療に見合った金額設定が重要といえるでしょう。
しかし、自由に特約を選べる反面、適切な補償内容にしなければ、万が一の場面で補償しきれなくなるため注意が必要です。
なかには、厳しいノルマやハラスメントなどにより気を病むなど、精神的なダメージから休業する人もいるかもしれません。
精神疾患による損害賠償には「労災認定身体障害追加補償」、パワハラなどのハラスメントに関する賠償責任問題には「雇用慣行賠償責任補償」などの特約も検討しましょう。
加入している特約内容の重複
加入する際に確認したほうが良いのは、加入する保険内容と、付帯した特約の補償内容が重複していないかということです。重複している場合、どちらかの保険金は支払われない可能性があります。
予期せぬ事態への備えは重要ですが、補償内容を理解しないまま多くの特約を付帯するのは、得策ではありません。
保険会社によっては、パンフレットに重複する可能性がある特約を記載しています。詳しく知りたい場合は、保険会社に直接確認してみてください。
一人親方でも契約できるか事前に確認する
基本的に労災上乗せ保険は、従業員に対する補償として加入する、あるいは事業主が従業員から損害賠償を請求された際の防衛として加入する保険です。そのため、一人親方のように、従業員を雇わずに事業を行なっている場合は、労災上乗せ保険に加入できない可能性もあります。
保険会社によっては、一人親方でも加入できる「グループ傷害保険」や「所得補償保険」など、労災上乗せ保険に代わる商品が用意されています。労災上乗せ保険に加入できない場合は、代用できそうな商品を保険会社に紹介してもらうとよいでしょう。
まとめ
労災上乗せ保険に未加入の一人親方は現場に入れない、あるいは加入している一人親方のみに委託するなど、保険の加入状況が仕事に大きな影響を与えることもあります。
労災上乗せ保険に加入していない場合、労働者に対する補償が不十分になるだけではなく、元請けに対する責任問題や風評被害なども起こってしまうでしょう。
労働者に対する補償を手厚くするとともに、取引先との信頼関係を構築するためにも、労災上乗せ保険には加入しておくべきです。
労災上乗せ保険に加入する際は、起こりうるリスクを考慮したうえで、過不足のない補償内容にしてください。