一人親方が加入する保険とは?健康保険、年金の種類や労災保険の特別加入手続きを解説
一人親方で働いていくときに、知っておきたいのが社会保険の加入についてです。社会保険は、ケガや病気をしたときの医療費や老後に受け取る年金に大きく関わってきます。
また、危険と隣り合わせの現場で仕事をする場合には、労災保険にも加入しておくことも大切になります。
しかし、一人親方になったものの「社会保険の加入はどうしたらいいの?」「どうやって手続きしていいかわからない」という方も少なくありません。
ここでは一人親方が加入する健康保険の年金の種類や労災保険の特別加入手続きなどについてわかりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.一人親方が加入すべき社会保険とは?
- 1.1.社会保険に加入すべき理由
- 1.2.一人親方が加入すべき社会保険
- 2.一人親方は労働形態によって入るべき保険が異なる
- 2.1.一人親方の2種類の労働形態
- 2.2.それぞれの労働形態の判断基準
- 3.一人親方が加入する年金制度
- 3.1.国民年金
- 3.2.国民年金基金
- 3.3.退職金を保障する小規模企業共済
- 3.4.小規模企業共済とは
- 3.5.一人親方が小規模企業共済に加入するメリット
- 4.労災保険に加入できるか?
- 5.労災保険への特別加入制度とは?
- 5.1.特別加入とは
- 5.2.特別加入に必要な手続きとは
- 6.まとめ
一人親方が加入すべき社会保険とは?
一人親方とは、労働者を雇わず自分一人で仕事をする事業形態で、おもに建設業界で多く見られます。
一人親方は、「健康保険」「年金」「特別加入制度の労災保険」などの社会保険に加入する必要があります。
社会保険に加入すべき理由
社会保険へ加入すれば、ケガや病気になったときの医療費を軽減できる「医療保険」。そして、高齢になったときに収入として得られる「老齢年金」。さらに万が一、障害を負ってしまった場合にも「障害年金」を得ることが可能です。さらに、死亡した場合に遺族に支給される「遺族年金」があります。
特別加入制度の労災保険へ加入していなければ、仕事をさせてもらえない現場もあります。そのため、仕事ができる現場を増やすためにも、一人親方は特別加入制度の労災保険へ加入しておくとよいでしょう。
一人親方が加入すべき社会保険
一人親方の場合は、個人事業主として「国民健康保険」と「国民年金」などの社会保険への加入が義務付けられています。必ず社会保険には加入するようにしましょう。雇用保険や労災保険については、企業に雇用された労働者が対象なので加入できません。
しかし、一人親方の場合は「労災保険特別加入制度」により労災保険に加入することができます。
一人親方は労働形態によって入るべき保険が異なる
一人親方であっても、労働形態によって加入する保険が異なってきます。労働形態を確認してから、社会保険の加入を進めていきましょう。
一人親方の2種類の労働形態
一人親方には、「請負としての働き方」「労働者としての働き方」の2つがあります。
「請負としての働き方」では、仕事を選択できる自由があります。予定外の仕事であったなら、断るという選択も可能です。また、仕事量や進捗状況も自分の裁量で行ない、報酬は出来高見合いで支払われます。
逆に「労働者としての働き方」では、予定外の仕事を断る自由はありません。仕事内容も指示を受けて働き、時間給で報酬が支払われます。
あなたがどちらの働き方に近いのかで、社会保険の加入手続きに違いがあるので確認しておきましょう。
それぞれの労働形態の判断基準
それぞれの労働形態における判断基準と加入する保険の違いを見ていきましょう。
請負としての働き方に近い一人親方
【特徴】
- 仕事を断る自由がある
- 就業時間を自分で決められる
- 仕事の進め方は自分で決められる
- 仕事で使う機械・器具は自分で持ち込み
- 損害が発生したときには自分が負担する
- 報酬は出来高で支払われる
【加入する保険】
- 市町村国民健康保険、または、国民健康保険組合
- 国民年金
- 労災保険(一人親方労災保険特別加入)
労働者としての働き方に近い一人親方
【特徴】
- 仕事を断る自由がない
- 就業時間は仕事先から決められている
- 仕事は毎日、具体的な指示を受けて働く
- 仕事で使う機械・器具は会社が提供する
- 損害が発生したときには会社が負担する
- 報酬は時間給で支払われる
【加入する保険】
- 雇用保険
- 協会けんぽ/市町村国民健康保険/国民健康保険組合/健康保険(日雇特例被保険者)のいずれか(※労働環境によって加入する保険が異なります)
- 厚生年金/国民年金のいずれか(※労働環境によって加入する保険が異なります)
もしも、あなたがどちらの労働形態に当たるのか、どの社会保険に加入すればいいのかわからないときは、社会保険労務士などの専門家や公的機関に相談してみましょう。
一人親方が加入する年金制度
一人親方が加入できる年金制度は、「国民年金」「国民年金基金」の2つになります。では、詳しく見ていきましょう。
国民年金
一人親方は、個人事業主そのため厚生年金には加入できません。そのため「国民年金」への加入が義務になります。
また、付加年金として付加保険料の月額400円をプラスして納めた場合、高齢になって受け取れる年金額を上乗せできます。
国民年金の付加年金を納める手続きをする場合は、お住まいの市区役所か町村役場の窓口で行なえます。
ただし、後述の国民年金基金に加入すると、付加年金には加入できないので注意しておきましょう。
国民年金基金
国民年金だけだと高齢になって受け取れる金額が多くありません。そのため、国民年金に併せて「国民年金基金」にも加入しておくとよいでしょう。
一人親方が対象となる国民年金基金は、全国国民年金基金などがあります。
国民年金基金では、個人事業主が加入できる65歳から受け取れる終身年金になります。国民年金基金の掛け金は、月額68,000円が上限で所得控除の対象になるメリットもあります。
さらに、個人型確定拠出年金(iDeCo)や民間の個人年金も活用すれば、国民年金のほかにも将来受け取れる金額を増やすことが可能です。
自分にあった年金制度を利用して、引退後の備えや将来の資産形成をしておきましょう。
退職金を保障する小規模企業共済
一人親方は退職金がないため、高齢になったときや引退した場合に備えて「小規模企業共済」に加入しておくことがおすすめです。
小規模企業共済とは
小規模企業共済とは、中小企業基盤整備機構が運営している「小規模の個人事業主などを対象とした退職後の生活の資金」を準備するための共済制度になります。
小規模企業共済は、簡単にいえば「退職金の積立制度」です。
小規模企業共済の手続きは、商工会議所や事業協同組合など中小企業基盤整備機構より業務委託された委託機関の窓口で行なえます。
月々の掛け金は、1,000円から7万円の範囲内となっており500円単位で選べます。
一人親方が小規模企業共済に加入するメリット
小規模企業共済に加入すれば、いくつかのメリットがあります。まず小規模企業共済は、積立制で掛け金は全額所得控除の対象になります。そのため、確定申告して納める所得税の納税額を軽減できます。
また、小規模企業共済を受け取るときは、退職所得控除が適用されます。そのため、ほとんど所得税がかからないのも魅力的です。
節税効果のある小規模企業共済には、加入している個人事業主が多くいます。高齢になったときや引退するときの資産形成をしておくために検討してみてはいかがでしょうか。
労災保険に加入できるか?
一人親方は、労働保険特別制度により労災保険へ加入できます。
本来、企業に雇用されている労働者ではない一人親方は、労災保険に加入できません。
しかし、事故やケガをしたときに労災保険に入っていなければ、補償が受けられず治療費を全額負担しなければならない状況に追い込まれます。
そのため、業務の実情や災害の発生を考慮され一人親方でも、労災保険に加入できる「労災保険特別加入制度」が設けられています。
労災保険の特別加入によって、通勤や仕事中の災害や事故などの治療費の補償。休業や障害における補償。亡くなったときの遺族補償も受け取れるようになります。
なお、労災保険に加入していない場合には、働かせてもらえない現場も多くあります。労災保険に加入することにより一人親方として働ける現場を増やせるメリットもあります。
そのため、万が一の事故やケガに備えるだけでなく、働き口を増やすためにも労災保険に加入しておきましょう。
労災保険への特別加入制度とは?
労災保険の特別加入制度といっても、いったいどのような制度なのかわからない方も多いのではないでしょうか。ここからは、特別加入制度について解説してきます。
特別加入とは
労災保険の特別加入制度とは、一人親方や中小企業の事業主などが、自分自身のために労災保険に加入できる制度になります。
この特別加入制度を利用すれば、通常の労災保険と同じように業務中・通勤中におけるケガや事故などに対する補償や休業、障害に対する補償が適用されます。
それに加えて、この労災保険の特別加入に併せて、民間の損害保険にも加入することもできます。
特別加入に必要な手続きとは
労災保険に特別加入する場合には、労災保険事務を代行している「労災保険事務組合」に加入する必要があります。
この「労災保険事務組合」に加入するには費用がかかり、労災保険料と組合費を支払う義務があります。
国に納める労災保険料は法律によって金額が決まっています。組合費については、それぞれの組合や補償内容などで違いがあるので事前に確認しておきましょう。
また、特別加入の際には、健康診断が必要になります。この健康診断は、労働局が指定した診断実施機関にて無料で受けることが可能です。ただし、交通費は自己負担になるので気をつけてください。
もしも、加入時の健康診断で結果が悪かった場合には、労災保険に加入できないので理解しておきましょう。
まとめ
一人親方として働くのであれば、面倒であっても社会保険の手続きが必要になります。しかし、労働形態によって社会保険の加入手続きに異なるので注意しましょう。もしも、どの社会保険に加入すればいいのかわからないときは、社会保険労務士などの専門家や公的機関に相談することをおすすめします。
また、一人親方は退職金がありません。引退後の収入として、国民年金にプラスして「国民年金の付加保険料」「国民年金基金」「個人型確定拠出年金(iDeCo)や民間の個人年金」なども検討してみましょう。さらに、節税や引退後の資産形成のために、小規模企業共済へ加入しておくのもよいかもしれません。
そして、一人親方は、厚生年金に加入できないこともあり、労働保険特別制度により労災保険にも加入できます。万が一の病気やケガの補償や働き口を増やすためにも、早めに手続きをしておきましょう。