労働災害のおける労災保険の治療費等の請求を解説
労働者が、業務上又は通勤により負傷したり、疾病にかかって必要な療養を行うことを療養(補償)給付と言います。業務災害であっても通勤災害であっても給付の内容に違いはありません。業務災害においては療養補償給付と言い、通勤災害にあっては療養給付と言います。便宜的に療養(補償)給付と表記するのが一般的です。
なお、通常は療養(補償)給付は労災保険において最初に行う給付となります。この記事では療養(補償)給付の概要を解説致します。
目次[非表示]
- 1.療養(補償)給付とは?
- 1.1.療養の給付
- 1.2.療養の費用の支給
- 1.3.誤って他の保険(自賠責、健康保険)等を使用した場合
- 2.療養(補償)給付の注意点
- 2.1.再発について
- 2.2.労災保険における治癒とは?
- 2.3.転院した場合
- 2.4.会社を退職した場合・仕事を廃業した場合
- 2.5.労災保険の特別加入者が特別加入をやめた場合
- 3.療養(補償)給付の申請方法・手続方法
- 4.まとめ
療養(補償)給付とは?
負傷・疾病に対する療養(補償)給付の給付・支給の範囲は下記の通りです。
- 診察
- 薬剤又は治療材料の支給
- 処置・手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
- 移送のための費用
入院・通院の治療費、薬剤の支給、治療用装具の支給、医療機関までの交通費等非常に多岐に亘りますが、無条件に認められるわけではなく国が一般療養の目的に不可欠と認めるものに限られています。また、給付の期間は治癒又は死亡するまでです。どういう場合を「治癒」とするかについては後述致します。
療養(補償)給付には「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2通りがあります。
療養の給付
療養の給付は労働局が指定した医療機関において治療や薬の処方を受けることを言います。窓口での負担がないことから「現物給付」という言い方をします。
医療機関によって対応は異なりますが、通常は治療や薬の処方を受けた月内に療養(補償)給付に関する書類を提出すると「療養の給付」として処理してくれます。
療養の費用の支給
療養の給付は療養の給付が受けられないケースにおいてかかった費用の支給を受けます。これは一旦全額を支払い、後で労働基準監督署へかかった費用の請求をすることから「現金給付」と言われます。
「療養の費用の支給」に該当するケースとして以下があります。
- 労災指定医療機関で治療や薬の処方を受けたが療養(補償)給付に関する書類の提出が遅れた場合
- 誤って他の保険(自賠責、健康保険)等を使用した場合
- 治療や薬の処方を受けた医療機関が労災指定医療機関でなかった場合
- 治療材料や治療用装具の支給
- 移送費の支給
- 整骨院での施術
- 鍼灸院での施術
- 訪問看護
療養の費用の支給は被災者が一度全額を支払うことから負担が大きくなる傾向があり、また療養の費用の支給の請求をしても審査が終わり、支給がされるまで1カ月程度要します。
なお、上記の3,4,5,8については現金給付のみと取り扱いです。
負担額があまりにも高額になった場合は一度労働基準監督署でご相談することをお勧め致します。
誤って他の保険(自賠責、健康保険)等を使用した場合
労災事故の治療を誤って労災保険を使わずに他の保険を使用した場合、どのような取扱いになるのか解説致します。
これは医療機関によって対応が異なります。遡って労災保険の療養の給付に切り替えてもらえる医療機関もあります。この場合はできるだけ早めに療養(補償)給付に関する書類を提出して、窓口で費用の負担をしていれば支払った費用の還付を受けることができます。
これに対して切り替えができない場合は療養の費用の支給として下記の手順で手続きを進めます。
- 加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、役所等)の保険者へ誤って健康保険を使用した旨連絡します。
- 健康保険取扱機関の指示に従って、保険給付を返納してください。仮に窓口で3割支払っていた場合、保険者からは7割分の返還通知と納付書が届きます。
- 支払が完了すると領収書とレセプトがもらえます。
- 療養(補償)給付に関する書類に医師の証明をもらった上で、3割の領収書・7割の領収書・レセプトを添えて労働基準監督署へ提出します。
- 審査までに1カ月程度要します。
療養(補償)給付の注意点
ケガや疾病によっては療養(補償)給付の支給が長引くことも考えられます。長引いた場合の注意点を下記にまとめました。
再発について
一旦傷病が治癒したため給付が必要となくなった後に再発した場合、再度申請すれば給付が認められる場合があります。この場合、再発と認められるかどうかがポイントです。
労災保険における治癒とは?
労災保険の給付は治癒又は死亡するまで行われますが、労災保険上の治癒とは従前の状態まで回復することではありません。これ以上治療しても治療の効果が期待できない状態(良くも悪くもならない状態)を言います。症状固定という言い方をすることもあります。
治癒したとみなされた場合、療養(補償)給付は打ち切られます。また、この記事では解説していませんが、休業(補償)給付も治癒後は支給されません。治癒後に後遺症が認められた場合は障害(補償)給付の対象となります。
転院した場合
ケガや疾病の状況や転居などによっては他の医療機関で受診する場合があります。そのような場合でも療養(補償)給付は継続されます。ただし、療養(補償)給付に関する書類は改めて提出する必要があります。
会社を退職した場合・仕事を廃業した場合
会社を退職した場合や仕事を廃業した場合でも療養(補償)給付が打ち切られることはありません。療養が必要と認められる限りは支給は継続されます。
労災保険の特別加入者が特別加入をやめた場合
一人親方や中小事業主等の場合、労災保険の加入は任意となっています。これを労災保険の特別加入制度と言いますが、通常の労災保険と異なる点は特別加入を希望する者は名前、従事する業務の内容、給付基礎日額等を加入希望日の少なくとも前日までに労働基準監督署を通じて労働局へ届け出なければなりません。
この特別加入者が特別加入をやめた場合であっても療養が必要と認められる限りは支給は継続されます。
療養(補償)給付の申請方法・手続方法
療養(補償)給付の申請方法・手続方法は現物給付と現金給付とで方法が異なります。まず、現物給付から解説致します。また、業務災害と通勤災害とでは用紙が異なります。
現物給付の場合
現物給付の場合の労災の申請用紙は下記のとおりです。
- 業務災害の場合、療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書
- 業務災害において転院した場合、療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
- 通勤災害の場合、療養給付たる療養の給付請求書
- 通勤災害において転院した場合、療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
現金給付の場合
現金給付の場合の労災の申請用紙は下記のとおりです。
- 業務災害の場合、療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書
- 通勤災害の場合、療養給付たる療養の費用請求書
現金給付で厄介なのが労災指定外薬局、整骨院、鍼灸院、訪問看護の利用においてはそれぞれ独自の用紙が用意されています。もちろん、業務災害と通勤災害用は別です。
記載する内容はほぼ変わりありませんが、用紙が異なると受け付けてもらえませんので注意が必要です。
まとめ
労災保険の治療は労災事故に遭った場合に通常は最初に受ける給付となっております。どういう給付があり、その範囲がどの程度者のなのか確認しておく必要があります。
ちなみに、業務上の負傷・疾病は事業主の支配下にあることから、事業主の責任が労働基準法に明文化されておりますが、通勤途上は事業主の責任を問うことができないため労働基準法にはない労災保険法独自の給付となっています。