
労働災害の種類とは?建設業に多い事故の型と一人親方に関する注意点
業務に起因する怪我や病気は、労働災害として扱われます。労働災害には3種類の認定基準があり、災害を引き起こす事故の型は21種類に分類されます。
特に建設業は、全業種のなかでも労働災害の発生割合がトップクラスに多い業種です。しかし、一人親方に関しては、元請け企業の労災保険では補償されないため注意が必要です。
今回は、労働災害の定義や種類、認定基準についてわかりやすく解説するとともに、建設業に多い事故の型の一覧や一人親方が労災保険を利用する際の注意点を紹介します。
目次[非表示]
- 1.労働災害の定義
- 2.労働災害の種類と認定基準
- 3.建設業の労働災害における発生状況と事故の種類
- 3.1.建設業における労働災害の発生状況
- 3.2.建設業に多い事故の型とは?
- 3.2.1.墜落・転落
- 3.2.2.転倒
- 3.2.3.はさまれ・巻き込まれ
- 3.2.4.交通事故
- 4.一人親方における労働災害の注意点
- 4.1.元請け企業の労災保険は適用外
- 4.2.一人親方は労災保険の特別加入が可能
- 4.3.一人親方の業務災害は別の認定基準がある
- 5.まとめ
労働災害の定義
労働災害とは、業務の遂行中、業務に起因して負傷、疾病、または死亡することを指します。労働安全衛生法の第2条第1項第1号では、労働災害は以下のように定義されています。
労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。 |
ただし、業務に起因する疾病であっても、突発的ではなく慢性的に進行する病気は労働災害として認められません。例えば、じん肺や鉛中毒、食中毒、伝染病などが挙げられます。
労働災害はすべての労働者が対象の法律であるため、正社員やパートタイムなどの雇用形態、国籍などは問われません。万が一、労働災害が起きた場合、事業主は労働者に対して労災保険による給付で補償する義務があります。
労働災害の種類と認定基準
労働災害には3つの種類があり、それぞれ起因する内容や認定基準が異なります。ここでは、労働災害の種類とその特徴、代表的な事例を詳しく見ていきます。
業務災害
業務災害とは、業務中に起きた怪我や病気、または死亡を指します。業務災害の代表的な事例は、以下のとおりです。
- 工場で機械に巻き込まれてケガをした
- 炎天下の作業中に熱中症を発症した
- 建設現場の足場から転落して死亡した
業務災害と認定されるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの基準を満たす必要があります。
- 業務遂行性:事業主の支配・管理下において、業務中に発生した災害であること
- 業務起因性:災害の原因が業務に起因していること
業務災害は、事業所の敷地内で起き、かつ事業主の支配・管理下にある場合が前提です。また、休憩時間や終業後にケガなどが発生した場合も、業務内容や事業所の施設、設備に原因があれば業務災害とみなされます。
さらに、業務災害には「業務上疾病」も存在します。業務上疾病とは、事業主の支配・管理下で、有害因子にさらされることで発症した病気です。有害因子は人体に害になる要素で、化学物質や粉じん、無理な動作、極端な暑さや寒さなどが挙げられます。
業務上疾病の代表例には、調理中の一酸化炭素中毒や過度なストレスによる精神疾患などがあります。
業務上疾病と認定されるためには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 事業所に有害因子が存在すること
- 健康障害を引き起こすほどの有害因子にさらされたこと
- 発症の経過および病態が確認されること
通勤災害
通勤災害とは、自宅から仕事場に向かう途中や帰宅途中など、業務に関連する移動中に起きた災害を指します。通勤災害の代表的な事例は、以下のものが挙げられます。
- 自転車での通勤中に転倒してケガをした
- 駅の階段で転倒してケガをした
- 単身赴任先から帰宅する途中で交通事故に遭った
通勤災害として認められるには、移動が業務に関連していること、移動経路と方法が合理的であることが必要です。
また、通勤途中で寄り道した場合、日常生活に最低限必要な行為であれば通勤災害と認められます。具体的には、日用品の買い物や病院の受診、クリーニングの受け取りなどが含まれます。
ただし、居酒屋や映画館に行くなど私的な目的での寄り道で起きた事故は、通勤災害とは認められません。
第三者行為災害
第三者行為災害とは、事業主や労働者以外の第三者の行為によって引き起こされる労働災害のことです。ここでの第三者とは、事業主や労災保険の受給権者ではない、労災保険とは無関係の人を指します。
第三者行為災害に該当する代表的な事例は、次のとおりです。
- 営業中に第三者が起こした交通事故に巻き込まれた
- 配達中に他人のペットに噛まれた
第三者行為災害に該当する場合、労働者は労災保険の給付請求権、および加害者である第三者に対する損害賠償請求権を得ます。労災保険給付を受けるには、所轄の労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
建設業の労働災害における発生状況と事故の種類
建設業は、数ある業種のなかでも特に労働災害が発生しやすい業種です。次に、建設業における労働災害の発生状況や事故の種類を詳しく見ていきます。
建設業における労働災害の発生状況
令和5年「労働災害発生状況」の統計によると、死亡事故の件数は減少傾向にあります。しかし、休業4日以上の死傷者数は3年連続で増加している状況です。
業種別で見ると、建設業の労働災害による死亡者数は223人で、前年と比べて20.6%も減少しています。加えて、休業4日以上の死傷者数は約1万4,000人で、前年から0.9%減っている状況です。
また長期的な統計では、昭和48年頃をピークに、死亡者数および死傷者数ともに減少傾向にあるとされています。
出典:建設業における労働災害発生状況|建設業労働災害防止協会
建設業に多い事故の型とは?
労働災害における事故の型とは、損傷や疾病を引き起こす原因となった起因物が関係する事故の現象を指します。起因物は、機械や装置、環境など、災害をもたらした要因のことです。
以下は厚生労働省が定める事故の型の一覧で、21種類に分類されています。
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出典:安全衛生キーワード 事故の型|厚生労働省 職場のあんぜんサイト
労働災害を事故の型で分類することは、発生状況を把握しやすくしたり、対策を講じたりするうえで重要な役割を持ちます。
次に、建設業で特に多い事故の型の種類と、具体的な事例を見ていきます。
墜落・転落
墜落・転落とは、建築物や足場などの高所から、地上や低い場所へ落下することを指します。建設業の事故の型では、死亡者数、死傷者数ともに墜落・転落が圧倒的に多いのが現状です。
厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」によると、建設業における墜落・転落の死亡者は86人、死傷者数は4,554人です。事故の型別では、墜落・転落が原因の死亡者は全体の38.6%、死傷者数は31.6%と最多を占めています。
墜落・転落の起因物は、はしご、足場、屋根や梁の順に多く見られます。特に、休業4日以上の労働災害では、はしごや脚立からの墜落が3割を占め、足場の2倍程度です。
具体的な事例では、解体部品の積み込み中に落ちた資材で負傷する、ボード張りの作業中に足場から転落して骨折するなどが挙げられます。
転倒
転倒とは、平面上でつまずいたり滑ったりして倒れることを指します。厚生労働省の同調査によると、転倒による死傷者数は1,598人です。建設業における労働災害では、転倒は3番目に多い事故の型です。
また、4日以上の休業を必要とする労働災害のうち、転倒が20%以上と最多を占めています。建設現場は障害物の多い環境で作業するため、転倒のリスクが高くなります。具体的な事例では、資材を運搬中に仮通路の端でつまずく、鉄板の運搬中に足がもつれるなどです。
はさまれ・巻き込まれ
はさまれ・巻き込まれとは、機械などの間に身体の一部が挟まれたり、回転する機械に巻き込まれたりすることを指します。
建設業では、工具や建設機械を多用するため、はさまれ・巻き込まれによる労働災害が多く起きています。厚生労働省の同調査によると、はさまれ・巻き込まれによる死者数は13人、死傷者数は1,704人です。死傷者数の事故の型のなかでは、墜落・転落の次に多い状況です。
具体的な事例は、鉄骨を降ろす作業中に滑り落ちた鉄骨にはさまれる、インパクトドライバーで穴を開ける際に手袋が巻き込まれる、などが挙げられます。
交通事故
交通事故は、建設業での労働災害において、墜落・転落に次いで死亡者数が多い事故の型で、「工事現場内での事故」と「道路の走行中の事故」に分類されます。
工事現場内での事故例は、トンネル工事の測量作業中に高所作業車にひかれる、建築工事現場内でバックしたダンプカーにひかれるなどです。
一方、道路での走行中の事故は、現場からの帰路で出会い頭の事故に遭う、道路舗装工事中にタイヤローラーにひかれるなど、事例は多岐にわたります。
一人親方における労働災害の注意点
建設業の一人親方は個人事業主であり、元請け企業の労災保険に加入できません。ただし、一人親方でも労災保険に加入する方法があるため、以下のポイントを把握しておくことが大切です。
元請け企業の労災保険は適用外
一人親方が元請け企業から受けた仕事で労働災害に遭った場合でも、労災保険は適用されません。元請け企業の労災保険は、その企業と雇用関係にある従業員を対象とするものであり、雇用関係がない一人親方には適用されないためです。
したがって、元請け企業は一人親方に対して労災保険で補償する義務はなく、一人親方自身が労働災害に備える必要があります。
一人親方は労災保険の特別加入が可能
労災保険は通常、労働者を対象としていますが、一人親方も「特別加入」という形での加入が可能です。労災保険の特別加入は国がかかわる制度で、業務内容や労働災害の発生状況により、労働者と同等に保護されることが認められています。
労災保険の加入は義務ではありませんが、建設業は労働災害のリスクが高いため、加入しておくと安心です。労災保険の加入により、業務中の事故や疾病に対する治療費や休業補償、障害補償など手厚い補償が受けられ、自身や家族の生活を守ることにつながります。
なお、一人親方が特別加入するには、労働局が承認した特別加入団体や労災保険組合を通じて手続きを行ないます。補償内容に違いはないため、どの団体や組合から加入しても問題ありません。
最短で申し込みの翌日から加入できるケースもありますので、各団体や組合の公式サイトでチェックしてみてください。
一人親方の業務災害は別の認定基準がある
一人親方が労災保険から補償を受けるためには、労働災害が業務災害と認められる必要があり、以下の条件を満たすことが求められます。
ケース |
補償の対象となる行為 |
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請負業務に直接必要な行為を行う場合 |
請負契約の締結行為、契約前の見積り・下見、自宅から下見現場までの移動も含む |
請負工事の現場における作業、および直接付帯する行為である場合 |
請負契約に基づく行為、作業途中に必要な資材等の購入行為 |
請負契約に基づくものであることが明らかな作業を自家内作業場において行う場合 |
請負契約に基づく作業 |
請負工事に関する機械や製品を運搬する作業(手工具類程度のものを携行して通勤 |
機械や製品の運搬、自宅から工事現場に赴く途中の資材購入 |
突発事故(台風、火災など)により予定外の緊急の出動を行う場合 |
突発事故時の緊急出動 |
ただし、通勤災害に関しては特別な条件はなく、一般の労働者と同じ扱いになります。一人親方はこれらの条件をよく理解し、労働災害が起きた際も冷静に対応することが大切です。
まとめ
建設業は、全業種のなかでも労働災害による死亡者数と死傷者数の割合がトップクラスに多い業種です。特に、墜落・転落や転倒、交通事故などが代表的な事故の種類として挙げられます。
しかし、個人事業主である一人親方は、元請け企業の労災保険では補償されないため、注意が必要です。一人親方自身が労災保険に特別加入し、万が一の事故や疾病に備えて、手厚い補償を受けられるよう準備しておきましょう。
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