
建設業で外国人労働者を雇用するメリットは?在留資格による違いや雇用する際のポイントを解説
少子高齢化などの影響で、建設業では人手不足が深刻化しています。人手不足を補うために、外国人労働者を雇用しようと考えている方もいるのではないでしょうか。
しかし、日本人と違って、外国人を雇用するには法制度や手続きにさまざまなハードルが存在します。
また、最近では外国人の一人親方というケースも増えてきました。雇用関係でない一人親方の場合、在留資格には特に注意する必要があります。
そこで本記事では、建設業で外国人労働者が求められる背景を解説したうえで、雇用するメリット・デメリット、在留資格による労働条件の違い、雇用する際のポイントなどを紹介します。
目次[非表示]
- 1.外国人労働者が建設業で求められている背景
- 2.建設業で外国人労働者を雇用するメリット
- 3.建設業で外国人労働者を雇用するデメリット
- 3.1.きめ細かなコミュニケーションが必要
- 3.2.法制度や手続きが複雑
- 4.建設業で働ける在留資格
- 5.建設業で外国人労働者を雇用する際のポイント
- 5.1.在留資格の確実な確認
- 5.2.文化の違いを理解する
- 5.3.日本人との同一労働・同一賃金を守る
- 5.4.適切なサポートによる信頼関係の構築
- 6.まとめ
外国人労働者が建設業で求められている背景
建設業で外国人労働者が求められているのは、深刻な人手不足が背景にあるためです。2023年の調査によると、建設業の労働者のうち約36%が55歳以上である一方、29歳以下の割合は約12%を推移しており、高齢化が進んでいることが課題となっています。
若い世代は建設業の過酷な労働環境を敬遠しがちなため、人材の需要は高いものの、供給が追いついていません。
特に、地方の中小企業での人材不足は深刻です。大手や都市部の企業に比べると、地方の中小企業は待遇面で劣るケースが多く、人材が集まりにくい状況にあります。
これらの理由から、建設業界では外国人労働者の雇用により、人手不足を補う方向へと進んでいます。
建設業で外国人労働者を雇用するメリット
建設業で外国人労働者を雇用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。おもなメリットを2点紹介します。
人手不足の解消
外国人労働者の雇用により、人手不足問題の解消が期待されます。特に、高齢化が進んでいる日本の建設業にとって、若い外国人労働者を雇用できるメリットは大きいでしょう。
また、外国人労働者は在留期間の満期まで安定して働くケースが多く、すぐに辞めることもある日本人労働者に比べて、長期的な採用・育成にかかるコストを抑えられる点も魅力です。
人手不足が顕著な地方の中小企業にとっても、外国人労働者は貴重な存在です。外国人労働者は、日本人労働者ほど企業の所在地や知名度にこだわらないため、地方の中小企業でも条件のいい優秀な人材を獲得できる可能性があります。
社内の活性化
外国人労働者の雇用は、社内の活性化にもつながります。外国人労働者から見て日本の賃金は母国よりも高いケースが多く、外国人労働者は強い労働意欲を持っています。そうした外国人労働者の意欲的な姿勢は、日本人労働者にも刺激を与えるでしょう。
また、外国人労働者を雇用するには、わかりやすい教育方法やマニュアルを整備する必要があります。これらの過程で教育方法などに対する見直しや改善が進み、業務のブラッシュアップも期待できます。
建設業で外国人労働者を雇用するデメリット
建設業で外国人労働者を雇用する際には、いくつかのデメリットも存在します。おもなデメリットは以下の2点です。
きめ細かなコミュニケーションが必要
外国人労働者と一緒に仕事をするには、きめ細かなコミュニケーションが必要です。日本語の微妙なニュアンスが伝わらず、仕事上のやり取りがスムーズにいかなかったり、言葉の壁から職場で孤立したりするケースがあります。そのため、こまめにコミュニケーションを取り、地道に日本語や仕事を教えていくことが重要です。
また、労働災害の発生率が高い建設業では、安全確保が最優先課題です。外国人労働者を労働災害から守るためには、徹底した安全指導や安全教育が欠かせません。外国人労働者でもわかりやすいようにマニュアルを翻訳したり、図やイラストを使って直感的に理解できるようにしたりするなどの工夫が求められます。
法制度や手続きが複雑
外国人労働者の雇用に関する法制度は複雑で、在留資格によって在留期間や行なえる作業が異なります。そのため、受け入れが決まったあともビザの発行の許可が出ないなどで時間がかかり、実際に働き始めるまでに時間を要するケースがあります。
また、国や自治体への届出も簡単ではなく、書類などの手続きに不備があると罰せられるケースもあるため、正確に必要書類を理解しておかなければなりません。さらに、法改正も頻繁に行なわれており、常に最新情報を把握しておく必要もあります。
建設業で働ける在留資格
日本には多くの在留資格が存在しますが、建設業で働ける在留資格は限られており、資格によって在留期間や可能な仕事の種類が決まります。
在留資格の確認や更新に不備があると、外国人労働者が強制送還されるリスクがあり、また一から新たな人材を探さなくてはなりません。さらに、雇用主も不法就労助長罪などに問われる可能性があるため、在留資格に関する正しい理解が必要です。
ここでは、建設業で働くのに必要な在留資格を詳しく解説します。
技能実習
技能実習は、日本で技能を身に付けた外国人労働者が、帰国後に学んだ技能を活かすことを目的としています。これは、日本の国際貢献の一環として、母国の経済成長にもつながるでしょう。
技能実習には、1号、2号、3号の3種類があり、それぞれ在留期間が異なります。1号は1年間、2号・3号はそれぞれ2年間の在留が可能です。つまり、最大で5年間の在留が認められます。ただし、3号は一部の優良企業のみ認められるため、一般的には3年間の在留が基本と考えるとよいでしょう。
技能実習で従事できる作業は、以下の22職種33作業に限定されており、単純作業は含まれていません。
職種名 |
作業名 |
---|---|
さく井 |
パーカッション式さく井工事 |
ロータリー式さく井工事 | |
建築板金 |
ダクト板金 |
内外装板金 | |
冷凍空気調和機器施工 |
冷凍空気調和機器施工 |
建具製作 |
木製建具手加工 |
建築大工 |
大工工事 |
型枠施工 |
型枠工事 |
鉄筋施工 |
鉄筋組立て |
とび |
とび |
石材施工 |
石材加工 |
石張り | |
タイル張り |
タイル張り |
かわらぶき |
かわらぶき |
左官 |
左官 |
配管 |
建築配管 |
プラント配管 | |
熱絶縁施工 |
保温保冷工事 |
内装仕上げ施工 |
プラスチック系床仕上げ工事 |
カーペット系床仕上げ工事 | |
鋼製下地工事 | |
ボード仕上げ工事 | |
カーテン工事 | |
サッシ施工 |
ビル用サッシ施工 |
防水施工 |
シーリング防水工事 |
コンクリート圧送施工 |
コンクリート圧送工事 |
ウェルポイント施工 |
ウェルポイント工事 |
表装 |
壁装 |
建設機械施工 |
押土・整地 |
積込み | |
掘削 | |
締固め | |
築炉 |
築炉 |
技能実習は国際貢献が目的のため、単なる人手不足の解消手段としては利用できません。しかし、一部では技能実習の名目で低賃金労働や長時間労働が行なわれており、問題になっています。
特定技能
特定技能は2019年4月に新設された在留資格で、人手不足の解消が目的の制度です。建設業では、「土木区分」「建築区分」「ライフライン・設備区分」の3つに分けられています。
特定技能には、特定技能1号と特定技能2号の2種類があり、最大5年在留できる特定技能1号に対して、特定技能2号は在留期間が無制限で、長期にわたり働けます。
特定技能で働くためには、技能実習を修了しているか、試験に合格することが必要です。すでにスキルのある外国人が試験に合格すれば、即戦力として即座に採用できる点が大きなメリットです。
資格外活動
資格外活動とは、留学など就労目的以外で来日している場合に、申請により週28時間以内で就労が可能になる制度です。また、夏休みなど長期休業期間中には、1日8時間以内で働けます。
ただし、資格外活動での仕事内容は単純作業に限定されるため、注意が必要です。
身分系在留資格
身分系在留資格には「日本人の配偶者等」や「永住者」などの種類があり、業務内容や労働時間に制限はなく、単純作業も行なえます。また、配置転換も制限がなく、日本人と同様に自由に働けます。
技術・人文知識・国際業務
技術・人文知識・国際業務とは、すでに高度な知識や技術を持っている人を対象とする在留資格です。建築士や設計士など専門職での雇用が多い資格ですが、営業や事務での雇用も可能です。
この資格は単純作業が仕事内容として認められておらず、あらかじめ具体的な仕事を決めておかないと、せっかくの知識や技能を有効に活用できません。
在留期間は、3ヵ月、1年、3年、5年のいずれかで、申請者の希望や企業の経営状況などによって、出入国在留管理庁が決定します。初めて申請する際は1年の在留期間が一般的で、更新回数の制限は設けられていません。
技能
技能は、外国特有の建築または土木の技術を持ち、実務経験も豊富な人のための在留資格です。海外の建築様式を取り入れたい場合に適しています。
在留期間は、技術・人文知識・国際業務と同様に、3ヵ月、1年、3年、5年のいずれかが選べます。
在留資格の取得にあたり、契約形態(雇用、請負、委託)は問わず、安定的・継続的に仕事があり、収入を得ることができれば在留資格はおります。
ただし、技能実習と特定技能に関しては雇用契約でなければなりません。請負契約が基本である一人親方の場合、技能実習や特定技能の雇用形態ではないため、一人親方の労災保険には加入できない点には注意しましょう。
建設業で外国人労働者を雇用する際のポイント
建設業で外国人労働者を雇用する際に、失敗しないためのポイントをいくつか解説します。
在留資格の確実な確認
在留資格は必ず確認するようにしましょう。確認を怠ると、雇用主が不法就労助長罪などに問われる可能性があります。また、在留カードは偽造されているケースもあるため、コピーではなく実物でホログラムの有無などを確認することが大切です。
さらに、在留資格によっては、特定の業種での就労が制限されている場合があります。建設業での就労が可能かどうかも含めて、どの業種で働けるかを正しく把握しておきましょう。
出入国在留管理庁のWebページでは、在留カードの失効情報を照会でき、カードの見方についての説明もありますので、確認の際に役立ててください。
出入国在留管理庁|在留カード等番号失効情報照会
文化の違いを理解する
外国人労働者と一緒に働く際は、外国と日本の文化の違いを理解することが重要です。日本人には当たり前でも、外国人にとっては異なる場合があります。例えば、日本では始業時間前の出社が一般的ですが、国によってはこれが当たり前ではないケースもあります。また、日本の建設業でよくある「見て学ぶ」スタイルも、外国人には通用しにくい場合があるでしょう。
特に、宗教上の違いには注意が必要です。例えば、イスラム教徒は1日に5回、メッカの方向に礼拝を行なうので、礼拝のためのスペースの確保が必要です。また、ラマダンと呼ばれる断食月には、日中に食事や水を摂れません。建設業でイスラム教徒の外国人労働者が働く場合は、これらに十分に配慮しましょう。
日本人との同一労働・同一賃金を守る
日本語があまり得意でなく、コミュニケーションが難しい外国人労働者であっても、最低賃金を下回ることは許されません。技能実習生に対しても、実習だから賃金を支払わないとするのは誤りです。
また、同じ作業をする日本人と比較して給与水準が低かった場合、たとえ最低賃金を上回っていても、特定技能の在留資格を取得できない可能性があります。特定技能の制度では、日本人と同等以上の給与水準が求められているためです。
ただし、仕事内容の違いから賃金が異なるなど合理的な理由があれば、日本人と外国人の賃金が異なっていても問題はありません。
適切なサポートによる信頼関係の構築
外国人労働者へのサポートは、仕事だけでなく日常生活でも重要です。特に、初めて来日した外国人の場合、日本の交通ルールや行政手続きなど、慣れないことが多くあります。
サポートを通じてこまめにコミュニケーションを取ると、信頼関係の構築にもつながります。信頼関係を築ければ、仕事も円滑に進むでしょう。そのためには、雇用する外国人ごとに、あらかじめ必要なサポートの内容を確認し準備しておくことをおすすめします。
まとめ
人手不足が深刻な建設業にとって、外国人労働者の雇用は若くて優秀な人材を獲得できるチャンスです。外国人労働者は、労働力不足の解決になるだけでなく、日本人労働者に新たな刺激を与えてくれる存在といえるでしょう。しかし、法制度や手続きを正しく理解しておかなければ、雇用主が法律違反に問われる可能性もあります。
外国人を雇用する際には、お互いの文化の違いを理解しながら、きめ細かなコミュニケーションを心がけて適切にサポートすることが大切です。これにより、スムーズに仕事が進められるようになるでしょう。