一人親方を始めとする個人事業主も労働安全衛生法の一部規定の対象へ

​​​​​​​一人親方を始めとする個人事業主も労働安全衛生法の一部規定の対象へ

 労働安全衛生法という法律があります。この法律は職場における労働者の安全や健康の確保とともに快適な職場環境の形成促進を目的として「労働基準法第五章 安全及び衛生」をもとに制定されました。会社はこの法律の定めに従い、労働者に対して安全で衛生的な職場を提供するとともに、労働災害や健康被害から守るようにしなければなりません。

 ライフスタイルの多様化を受けて委託契約や請負契約で働くという雇用されない働き方も一般的になってきましたが、個人事業主やフリーランスは相変わらず労働安全衛生法の対象外であり続けました。しかしながら、健康の確保や快適な職場環境は労働者以外の方にとっても必要です。また、当然のことながら労働災害は契約形態と問わず多数発生します。

 国は「労働者以外」の方の労働災害の多発を受けて、労災保険の特別加入の対象拡大をするとともに、労働安全衛生法の一部を適用拡大する方向を示し始めました。
 この記事は建設現場で働く一人親方はもちろん、一人親方を使用することが多い会社の安全担当者にも必須な知識と言えます。是非、参考になさってください。

目次[非表示]

  1. 1.労働安全衛生法とは?
    1. 1.1.事業者とは?
    2. 1.2.労働者とは?
  2. 2.労働安全衛生法拡大の背景
  3. 3.令和5年4月労働安全衛生規則の改正
    1. 3.1.作業を請け負わせる一人親方等に対する措置の義務化
    2. 3.2.同じ作業場所にいる労働者以外の人に対する措置の義務化
  4. 4.労働安全衛生法の改正
    1. 4.1.労災事故の把握
    2. 4.2.事故防止の対策
    3. 4.3.健康管理
  5. 5.一人親方労災保険の特別加入
    1. 5.1.一人親方労災保険の特別加入とは?
  6. 6.まとめ

労働安全衛生法とは?

 労働安全衛生法はとは、冒頭説明したように事業者が労働者の安全と健康を守り、労働者にとって快適な職場環境形成を促進するためのものです。制定後もいくたびも改正が重ねられおてり、今後も多くの点で改正が予想されます。労働安全衛生法を理解するうえで、まずは言葉の意味を確認致します。

事業者とは?

 労働安全衛生法では、事業者とは「事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。」と定義されています。法人の場合は会社そのものを指し、個人事業主の場合は事業主本人を指します。
 ちなみに、労働基準法では事業者のことを使用者という言い方をします。使用者というのは会社の事業ために行為をする者を使用者としており、その範囲は社長に留まらず部長や課長など一定の管理監督者も含まれます。これに対して、労働安全衛生法における事業者とは法人そのものを指します。これは労働者の安全衛生上における責任をはっきりさせるためと言われております。

労働者とは?

 労働安全衛生法によって保護の対象とされる労働者とは、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」です。これは労働基準法の労働者の定義そのものです。

労働安全衛生法拡大の背景

 建設現場の作業員や遺族が国や建材メーカーにアスベストを吸い込み肺の病気になったとして損害賠償を求めた裁判において、最高裁は国や建材メーカーの責任を認め、一人親方のような労働者でない者に対しても保護の対象とすべきとされました。

令和5年4月労働安全衛生規則の改正

一人親方の安全対策

 この判決を受けて令和5年4月の労働安全衛生法に基づく省令改正で、危険で有害な作業を行う事業者は作業を請け負わせるいわゆる「一人親方」や同じ場所で作業を行う労働者以外の者に対しても、労働者と同等の保護が図られるよう新たに一定の措置を実施することが事業者に義務付けられました。

作業を請け負わせる一人親方等に対する措置の義務化

  • 請負人だけが作業を行うときも、事業者が設置した局所排気装置等の設備を稼働させる等の配慮を行うこと
  • 特定の作業方法で行うことが義務付けられている作業については、請負人に対してもその作業方法を周知すること
  • 労働者に保護具を使用させる義務がある作業については、請負人に対しても保護具を使用する必要がある旨を周知すること

同じ作業場所にいる労働者以外の人に対する措置の義務化

  • 労働者に保護具を使用させる義務がある作業場所については、その場所にいる労働者以外の人に対しても保護具を使用する必要がある旨を周知すること
  • 労働者を立ち入り禁止や喫煙・飲食禁止にする場所について、その場所にいる労働者以外の人も立ち入り禁止や喫煙・飲食禁止とすること
  • 作業に関する事故等が発生し労働者を退避させる必要があるときは、同じ作業場所にいる労働者以外の人も退避させること
  • 化学物質の有害性等を労働者が見やすいように掲示する義務がある作業場所について、その場所にいる労働者以外の人も見やすい箇所に掲示すること

  以上のことから、事業者は雇用関係にある労働者や請負契約で働く一人親方だけでなく、同じ作業場所に立ち入る可能性のある方、例えば警備員、清掃業者、資材搬入業者など契約形態を問わず、その作業場で作業を行う全ての者に対して、安全への配慮をおこなう義務があるということになります。
 では、事業者のうち誰が義務を負うのでしょうか?
事業者の請負人に対する配慮義務や周知義務は、請負契約の相手方に対する義務です。例えば、三次下請けまで作業に従事する場合は、一次下請けは二次下請けに、二次下請けは三次下請けに対して義務を負います。

労働安全衛生法の改正

一人親方

 令和5年4月の省令改正は上記で見てきたようにアスベスト訴訟で争点になった個所のみでした。争点以外の個所についても見直しが必要だとして、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」が設置されました。
 
 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00010.html
 
 その結果、個人事業主に対して労働安全衛生法はどのような改正が予定されているのかを解説致します。ポイントは以下の3つです。

  • 事故の把握
  • 事故防止の対策
  • 健康管理

労災事故の把握

 近年、建設業の一人親方を初めとしてIT技術者やウーバーイーツなどのフードデリバリー配達員などフリーランス(個人事業主)が増加傾向にあります。個人で事業を行うことから安全や衛星に対する意識や対策が不十分なため事故のリスクは雇用関係にある労働者よりも大きく、その労災事故のリスクが長年指摘されておりました。
 なおかつ、労災事故が起きてもその報告をする義務がないため実態の把握が困難な状況にありました。そこで労働安全衛生法の規定を見直すこととしました。
 労働者と同様にフリーランス(個人事業主)が業務上の事故で死亡するか4日以上休業するけがをした場合、仕事を発注したり現場を管理したりする会社などに労働基準監督署への報告を義務づけることとしました。違反しても罰則はありませんが、是正勧告など行政指導の対象になります。

  • 個人事業主が事故にあった場合、仕事を発注した企業などに国への報告を義務づける
  • 個人事業主が過重労働で脳・心臓疾患や精神障害になった場合は、本人が国に報告できる仕組みをつくる
  • 国は事故の情報を分析して公表し、業界団体などに防止対策を促す

事故防止の対策

 労働安全衛生法の中でも労災事故の防止は非常に重要な項目です。特に建設業の一人親方やフードデリバリー配達員は重大な労災事故に発展しやすい傾向にあるため、事業者には、労働者の安全を保護する義務がありますが、その対象にフリーランス(個人事業主)も加えることとしました。また、フリーランス自身にも災害防止策を義務づけられます

  • 一部の作業について、企業に義務づけられた「労災を防止するための措置」の対象を個人事業主にも広げる
  • 個人事業主にも現場に持ち込む機械の定期自主点検を義務づける
  • 個人事業主にも危険有害な業務に関する安全衛生教育の修了を義務づける
  • プラットフォーマーが危険有害な業務を個人事業主に行わせる場合に配慮すべき内容を明確にする

健康管理

 会社は労働者に対して1年に1回健康診断を受診させ、労働者は健康診断を受診しなければなりません。また、会社は労働者の健康診断結果を把握し、労働者の健康管理に役立てなければなりません。しかしながら、フリーランス(個人事業主)は対象外です。フリーランス(個人事業主)の場合自身で医療機関に健康診断の予約をし、仕事の合間に健康診断の受診をしなければなりません。もちろん、費用の支払いも自分です。そのため、フリーランス(個人事業主)の健康診断受診率は労働者の場合と比べて極端に低いのが現状でした。こうした状況を受けて国はフリーランス(個人事業主)に対して以下のような対策を実施することとしました。

  • 国は個人事業主に年1回の健康診断を促す
  • 健康診断の費用は、発注企業が支払う報酬の中に盛り込むよう促す
  • 発注企業は、長時間労働をしている個人事業主から求めがあれば、医師による面接指導の機会を作る

一人親方労災保険の特別加入

一人親方労災保険

 労働安全衛生法が個人事業主も保護の対象へ拡大する中で労災保険も同様に徐々に労災保険に特別加入できる対象職種が拡大の一途をたどっています。今後もこの流れにより対象職種は増えていくことが予想されます。
 一人親方の労災保険の特別加入をご存じない方のために説明します。

一人親方労災保険の特別加入とは?

 労災保険の対象者は雇用関係にある労働者です。委任関係にある役員や請負契約や委託契約で働く個人事業主は労災保険の対象外です。労災保険ではこれが基本的な約束事です。
 これに対して、雇用関係にある労働者ではないが、その働き方がその仕事の実態や労災の発生状況から考えて一般の労働者と変わりなく、労働者に準じて保護されるべき対象として、本来労災保険に加入できない方へ対象職種を限定して労災保険への加入の道を拓きました。これが一人親方労災保険の労災保険という制度です。
 例えば、工事現場で働く職人を街中で見かけたことがある方は多いでしょう。また、タクシーの運転手の中には一定の経験を積んだ後会社組織から離れ個人で営業している方もいます。このような方々は外形的には雇用されている労働者なのか、それとも一人親方なのか区別はつきません。むしろ労災保険の保護と対象とした方が適切ではないでしょうか。ただし、一般の労災保険が義務であるのに対して、一人親方労災保険は任意ですが、万が一のことを考えると、一人親方労災保険に加入できる職種であれば是非加入して万が一の労災に備えておきたいものです。

まとめ

 労働安全衛生法が労働基準法より派生して成立したように、労災保険法もまた労働基準法が元になっています。労働安全衛生法は労働者の安全衛生を規制するものですが、労災保険法は労働者の労災に対して治療費、休業補償、障害補償、そして万が一の際の遺族補償の給付をするものです。
 労働安全衛生法はこれまで多くの改正を重ねてきました。今回ご紹介した労働安全衛生法の個人事業主を対象とする改正は確定事項ではありませんが、可能性はかなり高いと言っていいでしょう。
 個人事業主を使用する会社は当然ですが、個人事業主にとっても非常に重要な改正と言えます。安全や衛生に注意していても、それでも起きてしまうのが労災です。自分は大丈夫という考えは捨てて、ご自身の仕事が一人親方労災保険に加入できる職種なら是非特別加入を検討してみてください。

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