一人親方とは?個人事業主との違いや加入できる労災保険の特別加入制度について
これから一人親方となる方は一人親方と個人事業主の違いを理解しておくことが大切です。
どちらも個人で事業をおこなっている人を指しますが、業種や従業員の雇用制限、労災保険の加入資格などさまざまな違いがあります。
この記事では、一人親方と個人事業主の違いや、一人親方が加入できる労災保険の詳細まで解説します。
目次[非表示]
- 1.一人親方とは
- 2.一人親方と個人事業主の違い
- 2.1.一人親方と個人事業主の業種の範囲
- 2.2.従業員の雇用に制限があるか
- 2.3.労災保険への加入資格があるか
- 3.一人親方が入れる労災保険の特別加入制度とは
- 4.労災保険の補償対象
- 4.1.業務災害
- 4.1.1.雇用契約の場合
- 4.1.2.業務災害と認められるケース
- 4.1.3.業務災害と認められないケース
- 4.1.4.一人親方の場合
- 4.1.5.雇用契約と請負契約で働く一人親方の違い
- 4.2.通勤災害
- 5.労災保険の補償内容
- 6.まとめ
一人親方とは
一人親方とは、主に建設業において他人を雇用せず、また他人に雇用されずに施主、請負会社、施工会社などからの依頼により仕事をする方を言います。場合によっては、配偶者や自分の子供と一緒に仕事をするケースもありますが、その多くが個人事業主です。
「一人親方」というのは「職人」としてのランクの一つとしての側面もあります。本来、職人になるには「親方」の元で「見習い」として修業に励み一定の技術を習得して「職人」になります。その「職人」が「親方」から独立すると「一人親方」になります。「一人親方」になった者のうち、他の「職人」や「見習い」を数多く抱えてグループとして仕事をする者もいます。このような「職人」は「親方」とも呼ばれ、「職人」としての頂点と言っていいでしょう。
一人親方と個人事業主の違い
建設業の一人親方に限らず、法人登記をせずに個人で事業を営んでいる方を個人事業主と言います。最近ではIT系を中心に会社に雇われずに仕事をする方をフリーランスと言ったりしますが、フリーランスも個人事業主の一種と考えられます。
なお、株式会社として法人登記をする場合には資本金を決めて、定款や議事録や収入承諾書など数多くの書類をそろえて法務局へ届け出なければなりません。しかし、個人事業主の場合は税務署に開業届を提出するだけです。このような手軽さから独立当初は個人事業主として開業する方が多いでしょう。
では次からは一人親方と個人事業主の違いを一つ一つ見ていきましょう。
一人親方と個人事業主の業種の範囲
1つ目の違いは、業種の範囲です。個人事業主には業種の限定というものはありません。一人親方をはじめ、IT系のフリーランス、意外なところではプロ野球選手も個人事業主です。最近は小学生のなりたい職業の一つにyoutuberがランクインしています。youtuberなども会社に所属している人もいれば、個人事業主として活動している人もいます。
一方、一人親方は主に建設業や林業の個人事業主に対して用いられる用語です。労災保険の特別加入制度における一人親方というと、もう少し範囲が広くなります。これについては後述致します。
従業員の雇用に制限があるか
2つ目の違いは、従業員の雇用に制限があるかです。個人事業主は制限なく、他人を雇用することができます。
一方、個人事業主に対して、一人親方とは文字通り従業員を雇用せずに一人で業務を行う方を言います。
労災保険への加入資格があるか
個人事業主の場合、事業主本人は労災保険、雇用保険、そして社会保険にも加入できません。
また他人を雇用し給料を支払うことになった場合は、給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出し、従業員を対象に労災保険に加入しなければなりません。場合によっては雇用保険の加入の義務も生じます。このあたりは法人の会社と全く変わりません。なお、従業員を5人以上雇用している場合は社会保険にも加入しなければなりません。
一方、労災保険の特別加入制度における一人親方の場合、従業員を雇用しても労災保険に特別加入をすることができます。ただし、従業員の雇用日数は年間100日未満でなければなりません。100日以上となった場合は一人親方労災保険の特別加入制度に該当しないことになります。
以上、一人親方と個人事業主の違いを紹介しました。
つまり個人事業主のうち業種と雇用の条件を満たした方が一人親方と呼ばれ、単に「一人親方」といった場合は通常は建設業と林業の一人親方を指します。そして一人親方と個人事業主では入れる労災保険に違いがあります。
続いては、一人親方の労災保険の特別加入制度について説明いたします。
一人親方が入れる労災保険の特別加入制度とは
労災保険は会社又は個人事業主に雇用されている労働者が加入する広義の社会保険の一つです。仕事が原因のケガや疾病、あるいは通勤途上におけるケガが補償の対象です。ここで言う労働者とは正社員だけでなく、パートやアルバイトといった方も含まれています。つまり、雇用されているかどうかが労災保険に加入するかどうかの判断基準となります。健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険と違いその保険料の全額が会社又は個人事業主の負担です。
しかし、外形的に見て雇用されている労働者と同様な働き方をしている人は少なくありません。例えば、戸建ての建築現場で働いている大工が雇用されている人なのか、一人親方なのか外形的には分かりません。また、街中を走っているタクシードライバーにも個人で営業している方もいます。
このように雇用関係にないが、労働者と同様な働き方をしている方も労災保険の補償対象とする制度として、労災保険の特別加入制度があります。
労災保険の特別加入の対象となる一人親方の業種
冒頭、一人親方と個人事業主の違いを説明いたしました。そして、単に「一人親方」と言った場合は建設業と林業の個人事業主のことを言うと。
これに対して労災保険の特別加入制度のの対象業種となる個人事業主は以下の通りです。
- 建設業
- 林業
- 貨物運送業
- 漁業従事者
- 医薬品の配置業
- 産業廃棄物処理業
- 船員
- 柔道整復師
- 高年齢者雇用安定法に基づいて高年齢者が行う事業
- あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師
- 歯科技工士
これらの業種の個人事業主が労災保険の特別加入制度の対象業種となります。
言い換えると対象業種以外の業種は一人親方労災保険に特別加入できません。例えば、清掃業やIT系の業種は個人で仕事を請け負っている方が非常に大きなってきましたが、今のところ対象業種とはなっていません。
ただし、世の中のニーズが増えていけば対象業種に加えられるということもあります。現に柔道整復師などは令和3年4月に新たに対象業種に加えられました。働き方の多様性を考えると、今後も増えていくことが予想されます。
では、次から労災保険の中身を一人親方労災保険との関連も含めて説明いたします。
労災保険の補償対象
労災保険はどのようなときのケガや疾病に対して補償されるのでしょうか?大きく分けると二つあります。一つは業務災害、もう一つは通勤災害と呼ばれるものです。
業務災害
企業に雇用されている労働者の雇用契約の場合と一人親方の請負契約の場合とで、業務災害と認められるかの基準が異なります。
雇用契約の場合
業務災害とは一般的に雇用契約に基づく仕事をしている最中に仕事が原因で被ったケガや疾病のことを言います。仕事中であっても仕事に関係のない作業をしていたり、故意にケガをしたりした場合などは業務災害となりません。
業務災害と認められるケース・認められないケースを例示します。
業務災害と認められるケース
- 工場での作業中に鉄板に指が挟まれ負傷した
- 出先から戻る最中に駅の階段を踏み外して負傷した。
業務災害と認められないケース
- 休憩時間中に近くのコンビニに弁当を買いに行く途中で転倒して負傷した。
- 仕事中に暇を持て余し、同僚とキャッチボールをしていてボールが目に当たり負傷した。
一人親方の場合
建設業であってもその他の業種であっても雇用契約のもとで働いているわけではありません。例えば、建設業の一人親方の場合、請負契約で働くことになります。建設業の一親方の場合、業務災害と認められるためには下記の条件のいずれかを満たす必要があります。
- 請負契約に直接必要な行為を行う場合
- 請負工事現場における作業およびこれに直接附帯する行為を行う場合
- 請負契約に基づくものであることが明らかな作業を自家内作業場において行う場合
- 請負工事に関する機械や製品を運搬する作業(手工具類程度のものを携行して通勤する場合を除く。)およびこれに直接附帯する行為を行う場合
- 突発事故(台風、火災など)により予定外の緊急の出動を行う場合
雇用契約と請負契約で働く一人親方の違い
雇用契約の元で働く労働者と請負契約の元で働く一人親方には大きな違いがあります。
例えば、依頼された建設業の仕事がなかったので自宅に隣接する倉庫の片付けをしていた時にケガをした場合はどうでしょう。この場合、仕事に関係してケガをしたと言えなくもありませんが、請負契約に基づいた作業中のケガではありません。したがって、業務災害とはなりません。
一方、雇用契約に基づいて仕事をする労働者の場合、仕事中に会社に隣接している倉庫の片付けをしていた場合のケガであっても業務災害として労災保険の補償の対象となります。
通勤災害
通勤災害とは、自宅から職場まで又は職場から自宅までに行く途中に被ったケガのことを言います。ただし、通勤途中に寄り道したり、通勤とは関係のない行為をしたりした場合はその行為の後にケガをした場合は通勤災害とは認められない恐れがあります。
ただし、日用品の購入や病院などの受診の為などの行為は日常生活においてやむを得ない行為として、その間の行為の前と後に被ったケガに関しては通勤災害と認められます。
また、通勤とは1日に複数回あっても問題ありません。例えば、午前中の仕事が終わり昼休憩の為一旦自宅へ帰り、食事後に再度仕事場へ行くというケースの場合、朝仕事場へ行くとき、昼自宅へ帰るとき、食事後自宅を出て仕事場へ行くとき、終業後自宅へ帰るときのいずれも通勤となります。
ところで、学生などはバイトを掛け持ちするということがよくあります。自宅を出て学校に行き授業が終わってバイト先Aへ直行、バイトAが終わり、次のバイト先Bへ行き、夜遅くに帰るというケースを考えてみましょう。
① 自宅から学校まで 通勤とならない
② 学校からバイト先A 通勤とならない
③ バイト先Aからバイト先B 通勤となる
④ バイト先Bから自宅まで 通勤となる
①はともかく②については意外に思った方は多いのではないでしょうか。冒頭説明したように通勤とは自宅から職場まで又は職場から自宅までに行く行為を言います。そして、その間に被った災害を通勤災害と言います。バイト先Aへ行ったのは学校からです。当然ですが、学校は自宅とはみなされないため通勤とはなりません。
また、自宅を出て学校を経由してバイト先Aへ行ったと考えられなくもありませんが、学校という寄り道はあまりにも通勤からかけ離れた行為とみなされ、やはり通勤とは言えません。したがって、②の行為中にケガに遭ったとしても通勤災害とは言えないでしょう。
最後に一人親方の場合の通勤災害を考えてみましょう。結論から言って、雇用関係にある労働者と変わりありません。唯一異なるのが業務災害の時に説明したように、例えば建設業の一人親方の場合であれば、請負契約に基づいた移動であるかどうかです。
労災保険の補償内容
前節ではどのようなときに労災保険の補償対象となるのか(保険が下りるのか)を見てきました。この節では業務災害又は通勤災害に遭ったときの補償内容を見ていきます。補償内容を大まかに分けると治療費、仕事を休んだ時の休業補償、後遺症があった場合の障害補償、死亡した場合の遺族への補償の4つです。
療養補償給付
ケガや病気が治るまで治療費や治療にかかる費用などが給付されます。ここで「治る」というのは症状が固定し、これ以上治療しても治療の効果が期待できない状態を言います。症状固定という言い方をするときもあります。
なお、治療にかかる費用というのは、コルセットの装具であったり、医療機関までの交通費だったり多岐にわたります。
療養補償給付を受ける場合は事前に労働基準監督署、会社、一人親方の場合は所属する一人親方団体などに確認するといいでしょう。費用を支払った後に実は労災保険の保険給付の対象外だったということもあります。そうならないためにも事前の確認が必要です。
休業補償給付の支給方法は二通りあります。医療機関の窓口で負担なしで治療を受ける場合と一旦費用を支払ったうえで労働基準監督署に費用を請求する場合があります。
休業補償給付
休業補償給付は通院又は入院により治療が必要な間の生活補償となります。休業補償給付は治るまで、かつ医師が労務不能と認める間は給付がされます。ただし、会社から賃金を受けたりすると全額又は一部が支給停止となりますので注意が必要です。一人親方の場合はそもそも賃金というものがありませんので、賃金要件は不要です。
給付額は雇用関係にある労働者の場合と一人親方の場合とでは異なります。労働者の場合は労災事故に遭う前3か月間の給与の平均の大体8割となります。一人親方の場合は給与というものがありませんので、事前に労働基準監督署に届け出た給付基礎日額の8割です。
そのため、届け出た給付基礎日額が低かったりすると労災事故に遭い、いざ休業補償給付を請求したとしても給付額は思ったより多くないというケースがあります。そのため、自身のライフプランに合わせた給付基礎日額を選択することが非常に大事です。
障害補償給付
障害補償給付はケガや病気が治った後に後遺症があった場合に給付されます。給付額は障害等級と給付基礎日額に応じて決まります。障害等級は1級から14級まであり、1級から7級は年金、8級から14級までが一時金となっています。
ケガや病気が治るまでは療養補償給付、休業補償給付。治った後に障害が残っていた倍は障害補償給付ということになります。
遺族補償給付
遺族補償給付はケガや病気が元で亡くなった場合に遺族に給付されます。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹が遺族とされ、記載した順番に優先権があるとされています。給付額は遺族の人数と給付基礎日額によって決まります。
また、遺族が亡くなった人の収入によって生計を維持されていた場合は年金、生計を維持されていた遺族がいない場合には一時金となります。
労災保険の給付には上記以外にも介護が必要な場合の補償や葬祭を行った場合の補償などもあります。不幸にも労災事故に遭った場合は治療に専念することはもちろんですが、ご自身で労災保険の給付について調べることも大事なことと言えるでしょう。
まとめ
一人親方は個人事業主の一種ですが、業種や従業員雇用の制限、労災保険への加入資格などさまざまな違いがあります。
違いを理解して開業するようにしましょう。
また一人親方の一部の業種の方は、労災保険へ特別加入ができます。未加入だと現場に入れなかったり、万が一労災が起きたときに補償がありませんので、加入をおすすめいたします。
労災保険の特別加入制度は国の保険です。どこの組合で加入しても補償内容は変わらないため、加入までの早さ、費用で比較するのがおすすめです。
労災センター共済会では、一人親方の労災保険に最短翌日から加入でき、組合費もお得になっています。どこで加入するか迷ったら、ご検討ください。
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