一人親方が収入をごまかしたら?税務調査の内容やペナルティを解説
「面倒だから」「税金を支払いたくないから」などの理由で収入をごまかし、正しく確定申告をしていない一人親方がいるかもしれません。
しかし、税務署の目を逃れながら収入をごまかし続けることは難しいのものです。さらにはさまざまなペナルティが発生し、本来支払うべき税金よりも多くの請求を受けることになりかねません。
本記事では、一人親方が収入をごまかし続けることはできないといえる理由や、税務調査でチェックされやすいポイントを解説します。併せて、一人親方が収入をごまかした場合に発生するペナルティやデメリットも紹介するので、参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.一人親方は確定申告をする必要がある
- 2.収入をごまかし続けることはできない
- 2.1.税務署はお金の動きを把握している
- 2.2.一人親方は税務調査の対象になりやすい
- 3.一人親方への税務調査でチェックされやすいポイント
- 3.1.売上の計上漏れ
- 3.2.消費税逃れ
- 3.3.給与と外注費の区分け
- 3.4.家事関連費の取り扱い
- 4.収入をごまかした場合に発生するペナルティ
- 4.1.無申告加算税が発生する
- 4.2.延滞税が発生する
- 4.3.刑事罰の対象となる可能性も
- 5.ペナルティ以外にもさまざまなデメリットがある
- 5.1.各種サービスが受けられない
- 5.2.給付金や補助金を申請できない
- 5.3.大きな仕事を受けるチャンスを逃す可能性も
- 6.まとめ
一人親方は確定申告をする必要がある
そもそも、雇用関係を持たずに事業を行なう一人親方は、確定申告で収入を申告する必要があります。会社に勤めている方の場合は、会社側が年末調整を行なうため、主たる給与所得額が2,000万円を超えるなどの特別な事情がない限り、確定申告の手続きは不要です。
しかし、一人親方となると年末調整はしてもらえないため、自ら確定申告をし、納税しなければなりません。
収入をごまかし続けることはできない
もし「一人親方は自分で収入を申告するのだから、収入をごまかしても誰にも気付かれないだろう」と考えているなら要注意です。確定申告そのものを怠ったり、虚偽の内容を申告したりすると、遅かれ早かればれてしまいます。
一人親方が収入をごまかし続けることはできないと考えられる理由を、以下で確認しましょう。
税務署はお金の動きを把握している
税務署は、さまざまな観点からお金の動きを把握しています。お金を受け取った一人親方が収入を申告しなくても、お金を支払った側が支出を申告していれば、一人親方から収入の申告がないことはすぐにわかるでしょう。
ほかにも、税務署が銀行口座の動きを把握していたり、税務署へのリークがあったり、さらには一人親方の取引先に税務調査が入ったりする可能性があります。したがって、収入をごまかし続けることはできないといえるのです。
一人親方は税務調査の対象になりやすい
一人親方が税務調査の対象になりやすいのも、収入をごまかし続けられないといえる理由の一つです。
税務調査の実施割合は、法人を対象とするものが3%程度であるのに対し、一人親方を含めた個人事業主を対象とするものは1%程度と公表されています。このデータのみだと、特定の一人親方が税務調査の対象になる確率はとても低いように思えるかもしれません。
しかし、国税庁「事業所得を有する個人の1件あたりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」から、土木・建設業界を中心に、一人親方は調査されやすいと考えられるのです。
令和元事務年度のデータでは、申告漏れ所得金額が高い業種として、例えば土木工事が6位、ダンプ運送が7位、タイル工事が8位に挙げられています 。
一人親方への税務調査でチェックされやすいポイント
実際に一人親方へ税務調査が入ることになった場合、どのような観点から収入のごまかしをチェックされるのかご紹介します。
売上の計上漏れ
収入をごまかそうとする一人親方は、意図的に売上を計上していない可能性があります。そのため、元請けへ発行した請求書や元請けからの通帳の入金状況などを参考に、売上を抜いていたり、売上年度のずれがあったりしないか細かく確認されるでしょう。
通帳への振り込みではなく直接現金で取り引きしているケースなどは、一人親方本人への税務調査に加え、元請けや取引先に調査を行なうこともあります。
消費税逃れ
原則として、課税売上高が1,000万円を超える一人親方は「消費税の課税事業者」に該当します。消費税の課税事業者とは、最終的に消費税を納める義務が発生する事業者のことです。
実際は1,000万円を超える売上があるのに、あえて1,000万円を超えないように申告して売上を調整していないか確認されるでしょう。
一人親方を含めた個人事業主で税務調査の対象に選ばれるのは、消費税逃れをしている可能性が高いと考えられる、売上高800万円~900万円台のケースが多くなっています 。
給与と外注費の区分け
一人親方が誰かに仕事を依頼した場合、その対価が給与扱いなのか、外注費扱いなのかで税額が変わります。給与と外注費の区分けの原則は、雇用契約なら給与、請負契約なら外注費です。
しかし、本来は給与として扱うべきところ、税額を少なくするためにあえて外注費として申告していないか確認されるでしょう。
なお、意図的ではないケースでも、外注費だと思っていたものが税務署から給与と判定されることもあるため、注意しなければなりません。外注費であることを証明できるよう、あらかじめ請負契約書を書面で準備しておくことが大切です。
※ 被雇用者を外注化することは税額を少なくする以外にも社会保険料、雇用保険料、労災保険料をすくなくするメリットがあり、本来給与所得者として扱うべきところを委託・請負と偽装して処理するケースがあります。また、偽装するつもりがなくても偽装と認められる場合があります。偽装はもちろん違法です。そうならないためにもきちんと対策をする必要があります。
家事関連費の取り扱い
「家事関連費」とは、プライベート(家事部分)と仕事(事業部分)の両方に関係する費用のことです。例えば、自宅の一部を事務所など仕事で使用している場合、その家賃や光熱費などが家事関連費に該当します。
ただし、家賃や光熱費などを100%経費として計上することはできず、家事部分と事業部分は床面積や部屋数、使用時間などの合理的な基準で按分しなければなりません 。
収入をごまかしているケースでは、按分の合理的な基準が説明できなかったり、業務上直接必要とはいい難い部分まで事業部分に含めて計算していたりします。そのため、税務調査でもチェックされやすいポイントの一つとなるでしょう。
収入をごまかした場合に発生するペナルティ
一人親方が収入をごまかしたり、そもそも申告しなかったりした場合には、さまざまなペナルティが発生する可能性があります。
無申告加算税が発生する
確定申告の期限内に収入を申告しなかった場合、原則として「無申告加算税」が課されます。無申告加算税の額は、納付すべき税額が50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です。
ただし、申告期限を過ぎていても、税務調査を受ける前に自主的に申告をすれば無申告加算税の税額は5%に軽減されるため、気付いた時点で速やかに申告してください。
延滞税が発生する
定められた期限内の納税を怠った場合、原則として、その期限の翌日から納税する日までの日数に応じて自動的に「延滞税」が課されます。延滞税とはいわゆる遅延利息で、収入をごまかすなどして納めるべき税額が足りていなかった場合にも適用されるものです。
利率は年によって異なるものの、基本的には高利率のため、一人親方にとって負担となるでしょう。
刑事罰の対象となる可能性も
正当な理由なく期限内に確定申告の手続きをしないことは、所得税法第241条に基づき「単純無申告犯」として刑事罰の対象になる可能性もあります。単純無申告犯の法定刑は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
刑事罰が科された事例は少ないとはいえ、収入を隠すのは犯罪であることを認識し、特に相当な金額の収入をごまかしている場合は速やかに申告するのが望ましいでしょう。
ペナルティ以外にもさまざまなデメリットがある
収入のごまかしに対しては、無申告加算税や延滞税などのペナルティ以外にもさまざまな面でデメリットが発生します。
各種サービスが受けられない
例えば、住宅ローンを組みたいときや事業のための融資を受けたいときなどには、収入を証明する書類が欠かせません。一人親方が収入を証明するには、確定申告書類の写しや課税・納税証明書が必要です。
収入をごまかしている場合は、これらの書類を準備できない、もしくは書類から納税していないことがばれてしまうため、ローンや融資などのサービスは受けられなくなります。
給付金や補助金を申請できない
国や自治体が提供する給付金や補助金を申請するには、数年間分の確定申告書類の提出が条件となることがほとんどです。収入をごまかしていれば、新型コロナウイルス感染症の流行やリーマンショックなどのような緊急時にも、給付金や補助金を受け取れない可能性が高くなるでしょう。
必要なときに必要な支援を受けられないと、最悪の場合、一人親方として仕事を続けることが難しくなってしまいます。
大きな仕事を受けるチャンスを逃す可能性も
一人親方が収入をごまかすデメリットには、大きな仕事を受けるチャンスを逃す可能性も挙げられます。
前提として、建設業法第3条の規定により、建設工事を請け負う場合は、以下の「軽微な建設工事」を除き建設業の許可を受けなければなりません。
・建築一式工事 →工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事 または延べ面積が150平米未満の木造住宅工事 ・建築一式工事以外 →工事1件の請負代金の額が500万円未満の工事 |
さらに、建設業の許可を受けるためには、役員のうち1人に「経営業務の管理責任者としての経験を5年以上有している者」が必要です。そのため一人親方の経験が5年以上あれば、建設業の許可申請を予定している会社から役員としてのオファーがくる可能性もあります。
しかし、金額が大きな仕事の受注も、役員としてのオファーも、そもそもはきちんと確定申告を行ない、一人親方としての経験を証明しなければ実現できません。
収入のごまかしによる一時の得よりもさらに大きなチャンスを逃してしまう可能性もあるのです。
まとめ
税務署はお金の動きを把握しており、なおかつ土木・建設業界などの一人親方は税務調査の対象にもなりやすいため、一人親方が収入をごまかし続けることは難しいでしょう。
税務調査では、意図的に売上を抜いていないか、消費税逃れをしていないかなどを中心にチェックされます。
収入をごまかしていることが判明すれば、無申告加算税や延滞税が課せられるうえ、各種サービスや給付金・補助金を申請できないといった状況にも陥るのです。さらに、活躍の場を広げられる仕事を受けるチャンスも逃す可能性もあり、収入のごまかしは一人親方にとってデメリットしかありません。
あらためて収入申告状況を見直し、誤っている点や怠っている点がある場合には、速やかに是正してください。