一人親方が仕事を辞めたときの保障【雇用保険】について理解しよう

 「雇用保険」は労働者を守ってくれる社会保険制度の一つであり、一般企業で働く会社員などには基本的に加入が義務付けられています。しかし、一人親方として働く場合、雇用保険はどのような扱いになるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

 この記事では、雇用保険の概要を踏まえつつ、一人親方と雇用保険における関連性を解説します。また、一人親方が従業員を雇ったときに必要となる手続きも解説するので、ぜひご覧ください。

目次[非表示]

  1. 1.一人親方と雇用保険
    1. 1.1.雇用保険とは
    2. 1.2.雇用保険の適用基準
    3. 1.3.一人親方が対象にならない理由
  2. 2.一人親方と社会保険等の補償は?
    1. 2.1.労災について
    2. 2.2.医療保険等
    3. 2.3.雇用保険について
    4. 2.4.退職金について
  3. 3.一人親方が従業員を雇ったら?
    1. 3.1.従業員に対する社会保障は必須
    2. 3.2.一人親方の家族が被雇用者の場合
    3. 3.3.家族以外の人が被雇用者の場合
    4. 3.4. 一方、常用労働者が5人を超える場合、必要な手続きは以下のとおりです。
  4. 4.まとめ

一人親方と雇用保険

 まず大前提として、一人親方は雇用保険の対象者ではありません 。雇用保険の基礎知識にも触れながら、その理由を解説します。

雇用保険とは

 雇用保険とは、労働者が失業したときや育児・介護などを理由に休業するとき、必要な給付を行なう制度です。一般的に「失業保険」などと呼ばれることもあります。

 雇用保険の種類は、大きく分けると以下の3種類があります。それぞれ支給金額や保険料率が決まっているので、一緒に押さえておきましょう。

  • 失業等給付:失業者に対して1日あたり最大8,370円の基本手当日額を支給
  • 雇用継続給付:育児・介護などの理由により仕事ができない場合や60歳以後賃金が減少した場合に収入を一定額保証
  • 雇用保険二事業:雇用調整助成金の支給、労働者の能力開発サポートなど

 労働者の生活および雇用の安定を図ること、再就職にともなう職業訓練や資格取得をサポートすることが雇用保険のおもな目的です。労働者のセーフティーネットになることはもちろん、企業側にとっても従業員が安心して働ける環境を作れるため、双方に欠かせない制度といえるでしょう。

 雇用保険は国が管掌しており、強制保険制度として設けられています。雇用保険の適用事業に雇用される労働者の場合、雇用保険の被保険者になることが義務付けられているのです。

 雇用保険に加入している場合、事業主だけではなく労働者も毎月の給料から「雇用保険料」を支払わなければなりません。一般的な事業における保険料率は事業主が0.6%、労働者が0.3%です。

 ただし、農林水産業・清酒製造業・建設業については事業主が0.7~0.8%、労働者が0.4%と高くなっているため、この辺りも覚えておきましょう。

雇用保険の適用基準

 雇用保険は労働者なら誰でも加入するわけではなく、一定の適用基準が設けられています。以下の条件に当てはまれば、雇用保険の被保険者となります。

  • 31日以上の雇用が見込まれている
  • 1週間の所定労働時間が20時間を超えている
  • 雇用形態は問われない(派遣社員・パート・アルバイトなども対象)

 上記3つの条件をすべて満たしているのなら、その労働者は雇用保険に加入しなければいけません。業種・職種や勤務先の規模も問われないので、雇用保険はほとんどの労働者に適用されているといえるでしょう。

 なお、企業の経営者や取締役といった事業主の場合、原則として雇用保険は適用対象外となります。事業主は雇用保険の加入手続きを行ない、労働者を守る立場にあるからです。雇用保険の目的から考えると理解しやすいでしょう。

一人親方が対象にならない理由

 一人親方は法律上、労働者ではなく「個人事業主」に当てはまります。そのため、雇用保険に加入することはできません。

 それにより、一人親方の安全書類の書き方が問題となってきます。建設業などに携わる際には、発注元から「作業員名簿」の提出を求められますが、一人親方は雇用保険番号を持っていないため、そもそも項目を埋められないからです。

 こういったケースでは、作業員名簿の代わりに「再下請通知書」を作成すれば、安全書類として提出できるようになるでしょう。

一人親方と社会保険等の補償は?


 一人親方は雇用労働者ではありませんが、社会保険などによる補償を受けられることがあります。加入が義務付けられている制度もあるので、罰則や規制などのペナルティを避けるためにも、きちんと押さえておきましょう。

労災について

 労災保険も社会保険制度の一つであり、業務上・通勤途上の事故により負傷したときや、業務が原因よる病気が原因で亡くなったとき、金銭の補償などが行なわれる制度です。

 雇用保険と同じく労働者のために設けられた制度となり、個人事業主である一人親方は本来なら労災保険に加入できません。しかし、建設業などに携わる一人親方は、普段の業務や労災事故の発生状況が労働者とほぼ変わらないのが実情です。

 そのため、国は一人親方として働く人々のために、労災保険の「特別加入制度」を設けています。一人親方向けの労働組合などに加入すれば、一般的な労働者と同じく労災保険による補償を受けることが可能です。

 労災保険もたくさんの種類が分かれているので、以下も併せてご確認ください。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 障害(補償)年金
  • 障害(補償)一時金
  • 遺族(補償)年金
  • 遺族(補償)一時金
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • 傷病(補償)年金
  • 介護(補償)給付
  • 労災保険二次健康診断等給付

 種類ごとに条件や金額がそれぞれ異なっているため、各自きちんと把握することが大切です。

 労災保険への特別加入は任意ですが、一人親方は事故のリスクが高い建設現場などで働くケースが多いので、万が一の事態に備えて加入しておきましょう。

医療保険等

 一人親方として働く場合、医療保険は「国民健康保険」か「建設連合国民健康保険組合」の2種類どちらかに加入する必要があります。名称は少し似ていますが、実際はまったくの別物なので、それぞれ違いを理解しておきましょう。

 国民健康保険(国保)は自治体ごとに設けられている保険制度であり、それぞれ保険料や計算方法など異なることが特徴です。ほかの医療保険に入っている人以外は、基本的に国保への加入が義務付けられています。ただし、国保は総じて保険料が高いため、金銭的な負担が大きいと感じることがあるかもしれません。

 一方、建設連合国民健康保険組合(建設国保)は、建設業従事者や一人親方向けの組合です。一定の条件を満たさなければ加入できないものの、国保よりも保険料が安めの傾向があります。

 いずれの選択肢にしても、介護保険などを含めてカバーされるため、きちんと加入しておきましょう。

雇用保険について

 先述したように一人親方は雇用されている労働者ではないため、雇用保険は適用されません。つまり、仕事を廃業しても、失業手当は得られないということです。

退職金について

 「建設業退職金共済制度(建退共)」に加入すれば、一人親方でも退職金の受け取りが可能です。建退共の場合、まずは任意組合への加入が求められます。労災保険の特別加入制度を請け負う団体、もしくは一人親方の組合に相談してみましょう。

 また、その他の選択肢として「小規模企業共済」や「401k(iDeCo)」もあります。各自メリット・デメリットが異なるため、こちらも確認しておくとよいでしょう。

一人親方が従業員を雇ったら?

 一人親方が【雇用保険の加入対象】となる働き手を雇う場合、雇用契約書作成や給与計算に加えて、社会保障に関する手続きが必要になります。

 そこで、雇用状況を踏まえながら、手続きの内容や注意すべきポイントなどを解説するので、ぜひ参考にしてください。

従業員に対する社会保障は必須

 一人親方として働いていても、手元作業員や見習いという形で従業員を雇うことがあります。その従業員に対して、雇用保険などの社会保障を提供することは、事業主として果たさなければならない義務です。

 従業員を1人でも雇用したら一人親方の定義から外れるので、特別加入の労災保険から脱退するなど諸手続きを済ませなければなりません。ただし、請負契約など直接雇用しない場合は事業主と従業員という関係にはならないため、注意が必要です。

 また、手元作業員や見習いであっても社会保険に加入していなければ、建設現場への立ち入りを認められないケースがあります。そのため、事業主として中小企業主向けの労災保険に切り替えるなど、従業員が業務を遂行できる状況を整えられるよう意識しておきましょう。

 加入が義務付けられている保険に加入していない、必要な手続きを済ませていないといった場合、追徴金や懲役などの罰則を科される恐れがあります。社会的信用の損失にもつながるので、あらかじめ注意が必要です。

一人親方の家族が被雇用者の場合

 兄弟姉妹・配偶者・子供といった家族を従業員として雇う場合、その家族も一人親方という扱いになります。このような場合は、雇う側の一人親方と同じく国保・建設国保や国民年金、特別労災保険などに個人で加入しなければなりません。

 ただし、家族以外にも従業員を雇っていて、なおかつ以下の条件を満たしている場合、その家族も労働者と見なされるケースがあります。

  • 就業時間・休日制度・給与の支払い形式などが家族以外の従業員と同じ
  • 事業主(雇う側の一人親方)の指揮命令系統に基づいて働いていることが明確

 この辺りにも注意しつつ、手続きを進めましょう。

家族以外の人が被雇用者の場合

 家族以外の人を従業員として雇う場合、雇用期間の定めがない「常用労働者」の人数によって必要な手続きや加入すべき制度も変わってきます。

 常用労働者が1~4人の場合、以下のように手続きを進めましょう。

  • 【医療保険】国保もしくは建設国保に労働者個人で加入
  • 【年金保険】国民年金に労働者個人で加入
  • 【雇用保険】事業所として加入(一人親方が届け出る必要あり)

 一方、常用労働者が5人を超える場合、必要な手続きは以下のとおりです。

  • 【医療保険】協会けんぽ・健康保険組合・建設国保などに事業所として加入
  • 【年金保険】厚生年金への加入
  • 【雇用保険】雇用保険への加入

 なお、一人親方が事業主として従業員を雇用し、社会保険等の手続きを行なう場合は書類やスケジュールなど、確認しなければならない点がたくさんあります。各制度を詳しく知りたい、何から手をつけるべきかわからないといったときは、社会保険労務士など専門家に相談するのがおすすめです。

まとめ

 一人親方は個人事業主に該当するため、原則として雇用保険に加入できません。その一方で、特別労災保険や建設国保への加入は認められています。業務上や通勤途上で起こる事故のリスクに備えるため、金銭的な負担を抑えるためにも、各制度への理解はしっかり深めておきたいところです。

 また、一人親方が従業員を雇う場合、各種社会保険の加入手続きを済ませる必要があります。未加入や手続きの漏れは罰則につながりかねないので、忘れずに実行しましょう。


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